福利厚生に使える助成金や補助金とは?種類や活用例も紹介
福利厚生の充実は、従業員の満足度を高め、優秀な人材を確保する上で欠かせない要素です。一方で、新たな制度を導入するには、一定のコストがかかるという課題もあります。
そこで注目したいのが、国や地方自治体が提供する助成金や補助金です。これらの制度を活用すれば、費用負担を抑えながら、福利厚生を計画的に充実させることが可能です。
この記事では、福利厚生に活用できる助成金・補助金の種類や特徴、具体的な活用例、利用時の注意点についてわかりやすく解説します。
福利厚生に使える助成金・補助金とは?
助成金と補助金は、いずれも国や地方自治体から支給される返済不要の資金ですが、目的や制度設計には違いがあります。
助成金は、主に雇用や労働環境の改善を目的とした制度で、厚生労働省が中心となって管轄しています。
一方、補助金は、経済産業省や地方自治体が主に管轄し、設備投資や事業推進などを目的とした制度が多い傾向です。どちらも返済不要という点では共通していますが、募集形式や審査の有無、準備にかかる工数などに違いがあります。
なお、「助成金」と「補助金」という用語は法律で明確に分けられていますが、一般的には上記のように区分されることが多いため、本記事でも同様に使い分けています。
助成金と補助金の主な違いは、以下のとおりです。
■助成金・補助金の違い
| 項目 | 助成金 | 補助金 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 雇用維持・労働環境の改善など | 設備投資・事業推進など |
| 管轄省庁 | 厚生労働省が中心 | 経済産業省・地方自治体などが中心 |
| 審査の有無 | 原則なし(要件を満たせば支給) | あり(審査・選考を経て決定) |
| 募集期間 | 通年募集が多い | 期間限定の公募型が多い |
| 競争率 | 比較的低い | 高い(応募多数の場合は不採択も) |
| 難易度・準備工数 | 比較的少ない | 高め(書類・計画書の精度が求められる) |
| 返済義務 | なし | なし |
助成金は要件を満たせば原則として受給できるため、比較的取り組みやすい制度といわれていました。ただし、近年では要件が厳しくなっている傾向があります。一方で、補助金は審査制で競争率も高く、事業計画書の作成など、事前の準備に一定の労力が必要となります。
助成金でも補助金でも、書類を整えること以上に重要なのは、実際の制度運用や取り組み内容といった「実態」が伴っていることです。書類の整備に目が行きがちですが、こうした実態を整備することが大前提であることをしっかりと理解しておきましょう。
福利厚生に活用しやすい主な助成金
福利厚生の充実に活用できる助成金・補助金には、さまざまな種類があります。ここでは、従業員の生活・健康・教育・働きやすさに直接関係する施策に活用しやすいものを中心に紹介します。
なお、現時点では助成金が中心ですが、今後の国や自治体の施策によっては、福利厚生に関する補助金制度が設けられる可能性もあります。
人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金は、働き方の多様化や職場環境の整備を通じて、人材の確保・定着を図る企業を支援する助成金です。テレワーク制度の導入や短時間正社員制度の整備など、通勤負担の軽減や柔軟な働き方を実現する取り組みが対象となります。
例えば、テレワークコースでは、在宅勤務に必要な通信機器の購入費用やクラウドサービスの利用料などが助成対象です。こうした制度は、育児や介護と仕事を両立しやすい環境づくりにつながり、福利厚生の一環として位置づけることができます。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、従業員のスキルアップや資格取得支援などの人材育成に活用できる助成金です。外部研修の受講費用やeラーニングシステムの導入費用、資格取得にかかる経費などが対象となります。
特に、デジタル人材の育成やリスキリング(学び直し)を推進する企業にとっては、大きな支援となる制度です。従業員が安心して学び続けられる環境を整えることは、キャリア形成の支援だけでなく、長期的な定着も期待できるでしょう。
両立支援等助成金
両立支援等助成金は、育児や介護と仕事の両立を支援する制度導入に対して支給される助成金です。育児休業の取得促進や短時間勤務制度の整備、介護離職防止のための柔軟な勤務制度の導入などが対象となります。
例えば、出生時両立支援コースでは、男性従業員の育児休業取得を促進する企業に対して助成が行われます。従業員が育児・介護といったライフイベントに直面しても働き続けられる環境を整えることは、企業の持続的成長にも不可欠です。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、長時間労働の是正や多様な働き方の導入を支援する助成金です。労働時間の短縮や年次有給休暇の取得促進、テレワーク制度の導入などに取り組む企業が対象となります。
この助成金を活用することで、働き方改革関連法への対応を進めながら、従業員のワークライフバランスを改善する取り組みを推進できます。
助成金・補助金で充実できる福利厚生制度の例
助成金や補助金を活用すれば、さまざまな福利厚生制度を導入・充実させることができます。ここでは、具体的な活用例を紹介します。
リモートワーク支援
在宅勤務制度やテレワーク設備の導入は、助成対象になりやすい施策のひとつです。多様な働き方を実現することで、従業員の通勤負担を軽減し、ワークライフバランスの向上につながります。
通信機器の購入費やクラウドサービスの利用料、セキュリティソフトの導入費用など、具体的な経費が補助・助成の対象となるケースがあります。人材確保等支援助成金のテレワークコースなどを活用すれば、初期投資の負担を大幅に抑えることが可能です。
リモートワーク制度を整備することで、育児や介護と仕事を両立したい従業員や、遠隔地に住む優秀な人材の採用にもつながります。
スキルアップ・リスキリング支援
外部研修の受講費やeラーニングシステムの導入など、学び直しの機会を制度化する企業が増えています。デジタル化やAIの進展により、従業員のスキルアップは企業競争力の維持に不可欠となっています。
人材開発支援助成金などと組み合わせれば、研修費用を大幅に抑えることが可能です。例えば、IT関連の資格取得支援やプログラミング研修、語学学習支援などを福利厚生として提供することで、従業員のキャリア形成を支援できます。
従業員が自身の市場価値を高められる環境を提供することは、モチベーション向上や長期的な定着率の改善にもつながります。
育児・介護支援
短時間勤務制度や育児・介護休業制度の充実は、従業員が家庭と仕事の両立を図る上で重要な福利厚生です。両立支援等助成金を活用することで、柔軟な勤務制度を整えやすくなります。
具体的には、育児短時間勤務の対象年齢を法定以上に引き上げたり、介護のための在宅勤務制度を導入したりする取り組みが考えられます。こうした制度を整備することで、ライフステージの変化による離職を防ぐことが可能です。
また、企業内保育施設の設置やベビーシッター費用の補助など、より踏み込んだ支援を行う企業もあります。これらの取り組みは、従業員の安心感を高め、長期的なキャリア形成を後押しします。
福利厚生に助成金・補助金を活用するメリット
助成金や補助金を活用して福利厚生を充実させることには、企業・従業員の双方にとってさまざまなメリットがあります。ここでは、助成金・補助金を活用することで得られる主なメリットを整理して紹介します。

従業員満足度の向上と離職防止
従業員満足度の向上と離職防止につながる点は、福利厚生に助成金・補助金を活用する大きなメリットです。
助成金を活用することで、企業はコスト負担を抑えながら、テレワーク制度や柔軟な勤務制度、育児・介護との両立支援、スキルアップ支援といった福利厚生を整備しやすくなります。
こうした制度は、従業員の生活やキャリアを直接支えるものであり、「この会社で長く働きたい」と感じる要因になりやすいのが特徴です。特に、働き方の柔軟性や学びの機会を重視する若手人材にとって、こうした福利厚生の充実は高く評価され、結果として離職防止にもつながります。
採用活動や企業ブランディングへの効果
採用活動や企業ブランディングに好影響を与えられる点も、福利厚生に助成金・補助金を活用するメリットのひとつです。助成金を活用して導入した福利厚生制度は、求人情報や採用ページで具体的に打ち出しやすく、応募者への訴求力を高めます。
例えば、「テレワーク制度あり」「リスキリング支援制度あり」「育児・介護と両立しやすい制度を整備」といった内容は、求職者が企業選びを行う際の重要な判断材料になります。福利厚生が充実している企業としてのイメージが定着すれば、採用競争力の向上だけでなく、対外的な評価や信頼感の向上にもつながるでしょう。
健康経営・人的資本経営の推進を低コストで実現
健康経営や人的資本経営を、比較的低コストで推進できる点も、助成金・補助金活用の大きなメリットです。
助成金を活用すれば、従業員の健康維持や学び直し、働きやすさの向上といった施策を、企業単独で実施するよりも負担を抑えて進めることが可能です。
近年は、従業員への投資姿勢そのものが企業価値として評価される傾向が強まっています。育児・介護支援や柔軟な働き方、教育支援といった福利厚生を充実させることは、人的資本への投資としても位置づけやすく、結果として企業価値の向上にも寄与します。健康経営優良法人の認定取得を目指す企業にとっても、助成金を活用した福利厚生施策は有効な選択肢といえるでしょう。
助成金・補助金活用時の注意点
助成金や補助金は福利厚生の充実に役立つ一方で、活用にあたっては注意すべき点も存在します。ここでは、事前に把握しておきたい主な注意点を解説します。
申請の手間と時間がかかる
申請にあたって手間と時間がかかるのが、助成金・補助金を活用する際の注意点です。
助成金・補助金の申請には、事業計画書や就業規則、労働条件通知書など、多岐にわたる書類の準備が必要となり、制度ごとの要件を正確に理解することが求められます。
社内リソースだけで対応するのが難しい場合には、助成金であれば社会保険労務士、補助金であれば行政書士などの専門家を活用する選択肢もあります。専門家への報酬は発生しますが、申請作業がスムーズになり、社内の負担を減らせる点を踏まえれば、有効な投資といえるでしょう。
制度変更や受給できないリスクがある
制度変更や受給できない可能性があるのも、助成金・補助金の注意点です。
助成金は、国の政策方針や予算状況により、制度内容が変更・廃止されるケースがあります。そのため、常に同じ要件で利用できるとは限りません。
また、補助金は審査制のため、申請しても受給できないことがあります。特に人気の高い制度では、予算上限に達した時点で受付が終了するケースも少なくありません。助成金は要件を満たせば受給できますが、こちらも予算上限による受付終了が生じる場合があります。
さらに、助成金と補助金はいずれも原則として後払いであるため、制度導入や設備投資を先に行う必要があり、一時的な資金負担が発生します。申請前には最新情報を確認し、資金繰りを含めた計画を立てることが重要でしょう。
まとめ
- 福利厚生の充実には、国や自治体の助成金・補助金を活用することで、コスト負担を抑えながら制度導入が可能
- テレワーク、スキルアップ支援、育児・介護支援など、福利厚生と親和性の高い制度が多数用意されている
- 助成金・補助金の活用は、従業員満足度の向上や離職防止に加え、採用活動や企業ブランディングの強化にもつながる
- 一方で、申請手続きの負担や制度変更・不支給リスクもあるため、事前準備と最新情報の確認が不可欠
福利厚生の充実は、助成金・補助金の活用にとどまらず、対外的な評価や資金調達につなげることも可能です。
福利厚生や働き方改革への取り組みは、健康経営優良法人認定や、福利厚生表彰・認証制度であるハタラクエールといった評価制度と親和性が高く、採用広報や企業ブランディングに活かしやすくなります。
また、東京都で働き方改革・テレワーク推進施策の一環として、都内の中小企業向けに用意されているのが「東京都中小企業制度融資」です。東京都中小企業制度融資には複数の融資メニューがあり、なかでも「政策課題対応資金(DX・働き方改革・女性活躍等)」では、テレワーク環境の整備や業務効率化など、働き方改革に取り組む企業も活用対象となります。
助成金・補助金による福利厚生の整備を起点に、認定制度による評価向上や制度融資まで視野を広げることで、施策をより戦略的に活用できるでしょう。
こうした取り組みや支援制度については、以下のWebサイトでも詳しく紹介されていますので、ぜひご確認ください。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。