中小企業におすすめの福利厚生とは?相場や導入のポイントを解説
中小企業にとって、福利厚生の充実は人材の確保や定着を左右する重要な経営課題のひとつです。しかし、「大企業ほど予算をかけられない」「多くの種類があるので、どのような福利厚生を導入すればいいかわからない」と悩む担当者も多いのではないでしょうか。
この記事では、中小企業の担当者に向けて、福利厚生を充実させるメリットや費用の相場、導入しやすい福利厚生の種類、スムーズに導入するためのポイントなどを解説します。
福利厚生には「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」がある
福利厚生とは、企業が従業員に対して、給与とは別に提供する報酬やサービスの総称です。大きく「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類に分けられます。
法定福利厚生は、法律によって企業への導入が義務付けられているもので、厚生年金保険や健康保険、介護保険、雇用保険、労災保険・子ども・子育て拠出金などの社会保険が代表例です。加入要件を満たす従業員に対して、必ず加入させなければいけません。さらに、2026年4月分からは、健康保険に上乗せする形で「子ども・子育て支援金」も導入されました。
一方、法定外福利厚生は、各企業が独自の判断で設ける任意の制度です。一般に「福利厚生を充実させる」という場合、この法定外福利厚生の拡充を指します。住宅手当や食事補助、特別休暇、慶弔見舞金、退職金など種類はさまざまで、自社の規模や従業員ニーズに合わせた柔軟な制度設計が可能です。
▶福利厚生の種類については以下の記事もご参照下さい
中小企業が福利厚生を充実させるメリット
中小企業は、福利厚生を充実させることでさまざまなメリットを得られます。ここでは、代表的な3つのメリットについて紹介します。
採用競争力が上がる
中小企業が福利厚生を充実させるメリットのひとつに、採用競争力が上がる点が挙げられます。
業務内容や給与水準が近い企業が複数ある場合、求職者にとって福利厚生の充実度が入社の決め手となるケースも少なくありません。特に近年は、ワークライフバランスへの関心が高まっており、給与以外の待遇を重視するケースも増えています。知名度の面で大企業に及ばない中小企業でも、福利厚生が整っていれば他社との差別化を図りやすく、求職者の興味や関心を引くことができるでしょう。
従業員のエンゲージメント・モチベーションが向上する
福利厚生が手厚い企業ほど、組織への帰属意識といった従業員エンゲージメントや、業務に対するモチベーションが高まりやすい傾向があります。このことは、生産性の向上が期待できるだけでなく、長期的な定着率の改善にもつながります。
中小企業では、1人の離職が及ぼす経営への影響が大企業に比べて大きく、採用・教育コストも無視できません。従業員が長く働きたいという意欲が持てる環境を整えることが、安定した組織づくりの土台となります。
福利厚生費として損金算入できる
福利厚生費は、法定福利厚生に伴う「法定福利費」と法定外福利厚生に伴う「法定外福利費」に分けられます。
法定福利費の企業負担分は、原則として全額が税務上「損金」として認められるほか、一定の要件を満たした法定外福利費の支出も福利厚生費として損金算入することが可能です。
法定外福利費が損金として認められるためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
<法定外福利費が損金として認められるための要件>
- 全従業員を対象としていること
- 金額が社会通念上妥当であること
- 現金や商品券など「換金性のあるもの」でないこと
ただし、福利厚生費はあくまで会社から支出する費用です。損金算入によって法人税等の負担は軽減されますが、支出額そのものが戻ってくるわけではありません。そのため、「節税のために福利厚生を導入する」というよりも、従業員満足度や採用力の向上につながる支出を、税務上も適切に処理できるように組み立てていくことが重要となります。
▶福利厚生費については以下の記事もご参照下さい
中小企業の福利厚生費の相場はどのくらい?
福利厚生にかかる費用の相場を把握しておくことも、制度を検討・導入するうえでは欠かせません。
厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」によると、300人未満の企業における従業員1人あたりの法定福利費の月額平均は以下のとおりとなっています。
■300人未満の企業における従業員1人あたりの月額平均法定福利費
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|
従業員数 |
合計 |
健康保険料・介護保険料 |
厚生年金保険料 |
労働保険料 |
その他 |
|---|---|---|---|---|---|
|
100~299人 |
48,024円 |
16,864円 |
26,443円 |
3,534円 |
1,183円 |
|
30~99人 |
45,819円 |
16,012円 |
25,265円 |
3,645円 |
897円 |
一方、法定外福利費については、第一生命が2025年度に実施した福利厚生に関する実態調査によると、従業員1人あたりの年額平均が「1.2万~24万円(月額換算で1,000~2万円)」という企業がもっとも多くなっています。ただし、法定外福利費は企業によって差があります。福利厚生の導入を検討する際は、月額2万~5万円程度を目安に、従業員ニーズや財務状況などを踏まえて予算を設定するといいでしょう。
中小企業が導入しやすい福利厚生の種類
法定外福利厚生の種類はさまざまです。ここでは、中小企業が比較的取り組みやすい4つの福利厚生を紹介します。
家賃補助
家賃補助は、従業員の住居にかかる経済的負担の軽減を目的とした福利厚生です。都市部で働く従業員にとって、家賃をはじめとする住居費は家計の中でも大きな固定費のひとつであり、企業がその一部を負担することで、従業員は経済的な安心感を得やすくなります。
家賃補助を現金で支給する場合は、福利厚生費ではなく給与として損金算入することになり、個人側には所得税や住民税の課税対象となります。しかし、社員寮や社宅の提供にかかる費用は、法定外福利費が損金として認められる要件に加え、以下の要件をすべて満たすことで、会社負担分が福利厚生費として認められます。
<社員寮や社宅の費用が福利厚生費として認められるための要件>
- 企業が所有または契約した物件であること
- 従業員から貸借料相当額の50%以上を徴収していること
食事補助
食事補助は、企業が従業員の食事代を一部負担する福利厚生で、社員食堂の設置や食事券の配布、弁当の手配、電子マネーによる補助などさまざまな形で提供されます。
食事補助の費用は、法定外福利費が損金として認められる要件に加え、以下の要件をすべて満たせば、福利厚生費として処理できます。
<食事補助が福利厚生費として認められるための要件>
- 従業員が食事代の半分以上を自己負担していること
- 企業負担分が月額7,500円(税抜)以下であること
なお、この企業負担分の上限額は、2026年の税制改正によって42年ぶりに引き上げられた金額です。それまでは、1984年当時の物価を基準に「月額3,500円」が長年にわたって適用されてきましたが、昨今の物価上昇やランチ相場の変化を踏まえ、現行の「月額7,500円」へと大幅に見直されました。この改正により、企業はより充実した食事補助を提供しやすい環境が整ったといえます。
特別休暇
特別休暇は、法定の有給休暇とは別に、企業が独自に付与する休暇制度です。
特別休暇には、結婚休暇や忌引休暇のほか、サバティカル休暇(長期休暇制度)、ボランティア休暇、リフレッシュ休暇などがあります。従業員のワークライフバランスの実現を後押しするとともに、「働きやすい職場」として対外的なイメージ向上にもつながりやすい福利厚生です。
慶弔見舞金
慶弔見舞金とは、従業員の結婚や出産、死亡など、従業員に慶事や弔事があった際に、あらかじめ定められた基準に従って企業が支給するお祝い金・見舞い金のことです。
一般的には現金で支給されますが、その金額が社会通念上妥当な範囲であれば、福利厚生費として損金算入が可能です。また、結婚式や葬儀の際に、企業名義で贈る祝花・供花の費用についても、従業員に対するものであれば、福利厚生費として扱われることが一般的です。
中小企業こそ検討したい確定拠出年金(DC)
中小企業にとって、従業員の将来に備えた退職金制度を導入しておくことは、人材の採用や定着を考えるうえでのメリットとなります。中でも、確定拠出年金(DC:Defined Contribution)は、中小企業でも導入しやすい退職金制度のひとつです。
確定拠出年金は、企業型や個人型などの種類があります。企業型は、企業が毎月の掛金を拠出し、従業員自身が運用先を選んで将来の資産形成を行う制度です。従業員は原則60歳以降に、運用成果に応じて積み上がった資金を年金や一時金として受け取ることができます。
企業側のメリットとして、拠出した掛金を全額損金算入できる点、退職金の支給について企業に運用責任がない(退職金の給付水準への責任がない)点が挙げられます。
ただし、確定拠出年金を導入するには、労働組合(ない場合は従業員の過半数代表者)の同意を得たうえで企業型年金規約を作成し、厚生労働大臣の承認を受ける必要がある点に注意しましょう。加えて就業規則や賃金規程の整備なども必要です。また、従業員自身が運用先を選ぶ仕組みであるため、導入時の社内説明会や継続的な投資教育の機会を用意する必要があります。
▶退職金制度については以下の記事もご参照下さい
企業が福利厚生を導入するときのポイント
福利厚生を導入する際にはどのようなポイントに気をつければいいでしょうか。ここでは押さえておきたい代表的なポイントを紹介します。
従業員のニーズを把握する
福利厚生を導入する際は、まず従業員のニーズを把握することが大切です。年齢や家族構成、ライフステージといった従業員の属性によって、求められる制度は異なります。若い従業員が多い企業なら食事補助が喜ばれやすく、子育て世代が多い企業なら、育児支援や特別休暇のニーズが高まるでしょう。
従業員ニーズを把握するためには、アンケートや個別面談の実施が有効です。そこで得られた結果をもとに、優先度の高い施策から段階的に導入していくことで、限られた予算を効果的に活用しやすくなります。
助成金・補助金を活用する
国や地方自治体が提供する助成金・補助金を活用すれば、費用負担を抑えながら、福利厚生を充実させることが可能です。
特に、育児支援や教育訓練の分野では、費用の一部を国が補助する制度が比較的充実しています。福利厚生の導入に活用しやすい助成金として、人材確保等支援助成金、人材開発支援助成金、両立支援等助成金、働き方改革推進支援助成金などが挙げられます。
▶福利厚生に使える助成金や補助金については以下の記事もご参照下さい
福利厚生アウトソーシングサービスを検討する
「多様な福利厚生を提供したいが、管理するコストやリソースが足りない」という場合には、福利厚生アウトソーシングサービスの活用もおすすめです。専門業者に運営を委託することで、管理コストを抑えながら、多様な福利厚生メニューを用意できる可能性があります。
中でも、従業員に一定額のポイントを付与し、その範囲内でメニューを自由に選択できるカフェテリアプランは、従業員一人ひとりのニーズに対応しやすいとして注目されています。
代表的なサービスとして、株式会社ベネフィット・ワン社が提供する「ベネフィット・ステーション」が挙げられます。グルメやレジャー、ショッピング、スポーツ、健康、引越しサービスなど、多彩なメニューをそろえているサービスです。また、株式会社miiveの福利厚生サービスプラットフォーム「miive(ミーブ)」は、Visaカード1枚とスマートフォンアプリで福利厚生を運用できるサービスです。管理者、利用者双方に使いやすい仕組みが多く整っています。
▶カフェテリアプランについては以下の記事もご参照下さい
まとめ
- 福利厚生には、法律で加入が義務付けられた「法定福利厚生」と、企業が独自に設ける任意の「法定外福利厚生」の2種類がある。
- 中小企業が福利厚生を充実させることで、採用競争力の向上、従業員のエンゲージメント・モチベーションアップ、節税効果といったメリットが得られる。
- 中小企業が導入しやすい法定外福利厚生には、住宅手当・家賃補助や食事補助、特別休暇、慶弔見舞金などがある。
- 中小企業にも導入しやすい退職金制度として確定拠出年金(DC)がある。企業のメリットとして、掛金を費用計上できる点や退職金の運用責任がない点が挙げられる。
- 福利厚生を導入する際は、従業員ニーズの把握から始め、助成金・補助金の活用や福利厚生アウトソーシングサービスを検討することで、限られた予算でも効果的な制度設計が可能になる。
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借り上げ社宅の契約代行や管理業務、税務面でのアドバイスなど、専門的なノウハウを活かしたサービスで、企業の福利厚生充実を支援いたします。家賃補助制度の導入や見直しをご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。