サービスプロフィットチェーンとは?従業員満足度を収益に変える7つのステップ

サービスプロフィットチェーンとは?従業員満足度を収益に変える7つのステップ
サービスプロフィットチェーンとは?従業員満足度を収益に変える7つのステップ

顧客満足度や業績アップを目指しても、思うような成果が出ない...そのような悩みを抱える企業は少なくありません。その原因のひとつは「従業員満足度」にあるかもしれません。

この「従業員満足度」と業績との関係を理論的に説明したのが、サービスプロフィットチェーン(Service Profit Chain)です。サービスプロフィットチェーンは、従業員満足度がサービス品質や顧客満足度の向上、企業の利益にまでつながるという一連の因果関係を体系化した経営理論で、ハーバード・ビジネス・スクールの研究者らによって提唱され、多くの企業で実証されています。

ここでは、サービスプロフィットチェーンについて、7つのステップのほか、実際の企業事例や従業員・顧客ロイヤルティの測定方法についても紹介します。

目次

サービスプロフィットチェーン(SPC)とは?

サービスプロフィットチェーン(Service Profit Chain:SPC)とは、1994年にハーバード・ビジネス・スクールのジェームス・L・ヘスケット(James L. Heskett)氏らによって提唱された経営理論です。
彼らは論文「Putting the Service-Profit Chain to Work(英語)」の中で、「従業員満足度が顧客満足度を高め、それが収益や企業成長につながる」という因果関係を体系的に示しました。

この理論の最大の特徴は、企業内部の見えにくい部分である「職場環境」や「従業員の意欲」といった要素が、最終的に企業の利益や業績へと波及する構造を示している点です。従業員を単なる管理対象ではなく、顧客に価値あるサービスを生み出す起点として捉えることで、企業の成長サイクルを生み出すとしています。

サービスプロフィットチェーンの7つのステップ

サービスプロフィットチェーンは、従業員満足度から企業収益に至るまでの因果関係を、以下の7つのステップで明確に示しています。

<サービスプロフィットチェーンの7つのステップ>

  • ステップ1:内部品質の向上により従業員満足度を高める
  • ステップ2:従業員満足度が従業員ロイヤルティを向上させる
  • ステップ3:従業員ロイヤルティが生産性を高める
  • ステップ4:生産性向上がサービス品質を向上させる
  • ステップ5:サービス品質向上が顧客満足度を高める
  • ステップ6:顧客満足度が顧客ロイヤルティを向上させる
  • ステップ7:収益を従業員投資に再投資し、さらなる従業員満足度の向上によって成長サイクルを実現する

この7つのステップは循環し、従業員満足度の向上がサービス品質・顧客満足度・顧客ロイヤルティの向上へと影響を与え、最終的には企業の利益や成長につながっていくという構造となっています。

■サービスプロフィットチェーンの循環構造

サービスプロフィットチェーン

ここでは、7つのステップについて解説しますので、詳しくみていきましょう。

ステップ1:内部品質の向上により従業員満足度を高める

まずはステップ1として、内部品質の向上により従業員満足度を高めます。
内部品質の向上とは、社内制度や職場環境などを整備することです。公正な評価や適切な報酬、働きやすい環境を整えることで、従業員は会社から大切にされていると感じ、仕事への意欲が高まります。

従業員満足度と似た言葉である「従業員エンゲージメント」については以下の記事をご参照ください。

ステップ2:従業員満足度の向上が従業員ロイヤルティを高める

次にステップ2として、従業員満足度の向上によって、従業員ロイヤルティを高めます。
ステップ1によって満足度が高まった従業員は、会社に対して信頼や愛着を持ちやすくなります。従業員ロイヤルティとは、こうした組織への忠誠心や愛着心、離職しにくさといった帰属意識のことです。一般に、従業員ロイヤルティが高い人材は定着率が高く、長期的な活躍が期待されます。

ステップ3:従業員ロイヤルティが生産性を高める

次にステップ3として、従業員ロイヤルティの向上により、生産性を高めます。
従業員の会社への信頼や愛着が深まると、仕事へのモチベーションが高まり、自発的に業務へ取り組むようになります。その結果、業務の改善提案や問題解決への主体的な行動が増え、チームワークや協働意識の高まりも期待できるでしょう。こうした連鎖が業務の効率化を促し、組織全体の生産性向上へとつながっていきます。

ステップ4:生産性向上がサービス品質を向上させる

ステップ4では、生産性の向上によって、サービス品質を高めます。
従業員ロイヤルティが高まることで企業の方針に合った業務フローが構築され、業務プロセスが最適化されることで生産性が向上し、顧客対応の質やスピードが改善されます。また、一貫した品質基準や管理体制の整備も進み、サービスのばらつきが抑えられるでしょう。こうした改善が、安定的で高品質なサービス提供につながります。

ステップ5:サービス品質向上が顧客満足度を高める

ステップ5として、サービス品質の向上によって顧客満足度を高めます。
顧客の期待を超えるサービスは、顧客体験(CX)の向上につながり、企業に対する好評価やフィードバックが得られます。これをサービス品質改善に活かすことで、顧客満足度のさらなる向上も期待できるでしょう。

ステップ6:顧客満足度が顧客ロイヤルティを向上させる

ステップ6として、顧客満足度の高まりを活かし、顧客ロイヤルティを向上させます。
満足度の高い顧客は商品やサービスを継続的に利用し、他者にも推奨するようになるでしょう。こうした行動は、企業ブランドへの信頼や愛着である顧客ロイヤルティの向上の表れであり、結果として顧客生涯価値(LTV)の最大化も期待できます。

ステップ7:収益を従業員投資に再投資し成長サイクルを実現する

ステップ7として、企業は顧客ロイヤルティによって得られた収益を、さらなる従業員満足度の向上のために、再び従業員への投資に活用します。
人材育成や研修、福利厚生、働きやすい職場環境づくりに収益を再投資することで、従業員満足度がさらに向上し、成長サイクルが持続的に循環していくでしょう。

サービスプロフィットチェーン実践事例「スターバックス」

世界的なカフェブランドを展開する日本法人、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社は、従業員満足度を起点とした好循環を生むサービスプロフィットチェーンの考え方に取り組む企業のひとつです。

スターバックスでは、従業員を「パートナー」と呼び、成長と活躍の場を提供することで、顧客に最高の体験を届けるという姿勢を取っています。そして、入社後のトレーニングやメンター制度を通じてパートナーの成長を支援し、多様性を尊重する職場環境づくりに力を入れています。
また、10年ビジョンを「パートナー・お客様にとって、誰もが自分らしくいられるコミュニティとなること」とし、顧客体験の向上を重視したサービスを提供しているのです。

こうした取り組みは、従業員の意欲や誇りを高める効果が期待され、結果的にサービスプロフィットチェーンの好循環につながるとされています。

サービスプロフィットチェーンの測定と評価方法

サービスプロフィットチェーンの効果を最大化するには、7つのステップの状態を定量的に把握し、適切な改善サイクルを回すことが重要です。
ここでは、従業員・顧客それぞれの満足度やロイヤルティを測定・分析するための代表的な評価手法について紹介します。

従業員満足度調査とeNPSの活用

サービスプロフィットチェーンの出発点である「従業員満足度」の測定には、従業員満足度調査やエンゲージメント調査に加え、eNPS(Employee Net Promoter Score、従業員ネットプロモータースコア)の活用が有効です。

  • 従業員満足度調査
    従業員満足度調査は、職場環境・待遇・人間関係といった要因に対する満足度を把握するのに適しており、現場の不満や改善点を抽出できます。
  • エンゲージメント調査
    エンゲージメント調査は従業員の仕事への熱意や組織への愛着など、感情的・主体的なつながりを測定する指標です。
  • eNPS(従業員ネットプロモータースコア)
    eNPSは「自社を知人に勧めたいと思うか?」という1問から算出される指標で、企業への信頼やロイヤルティをシンプルに可視化できます。肯定的な回答者(推奨者)と否定的な回答者(批判者)の差からスコアを導き出し、組織全体の健康度を定量的に把握します。

これらの結果をもとに、従業員の声を反映した改善アクションプランを策定・実施することで、従業員満足度やロイヤルティの継続的な向上が可能になります。

NPSによる顧客ロイヤルティの効果測定

従業員満足度の向上がサービス品質にどう影響し、それが顧客ロイヤルティにどうつながっているかを可視化するには、顧客向けの評価指標の活用が欠かせません。その代表例がNPS(Net Promoter Score、ネットプロモータースコア)です。

  • NPS(ネットプロモータースコア)
    NPSは、「この企業・商品・サービスを他者に勧めたいと思うか?」という質問に対する回答をもとに、推奨者と批判者の割合差から算出される指標で、顧客ロイヤルティを定量的に評価できます。
    NPSスコアを定期的に測定・追跡することで、従業員施策やサービス改善の効果が顧客側にどう表れているか、確認が可能です。

また、NPSとeNPSとの相関を分析することで、従業員ロイヤルティと顧客ロイヤルティの関係性についての傾向を読み取る手がかりとなります。

まとめ

  • サービスプロフィットチェーンは、従業員満足度の向上がサービス品質や顧客満足度、収益へとつながる一連の因果関係を示した経営理論
  • サービスプロフィットチェーンは7つのステップで構成され、内部品質の改善から始まり、従業員ロイヤルティや生産性の向上を経て、顧客ロイヤルティの向上へと波及していく
  • サービスプロフィットチェーンの各段階を測定・評価する手法として、従業員向けのeNPSや顧客向けのNPSの活用が注目されている
監修
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渋田貴正(しぶた たかまさ) 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士の4つの資格を保有。上級相続診断士®。富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。

    
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