人材マネジメントとは?成功に導く4つのステップと事例を紹介
企業の競争力向上において「人材マネジメント」への注目が高まっています。人材マネジメントは、従来の人事管理とは異なり、人材を戦略的な経営資源として捉え、その価値を最大化する取り組みです。
しかし、具体的にどのように導入・運用すればよいのか、人事管理との違いや成功のポイントがわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、人材マネジメントについて重要視される背景や6つの構成要素のほか、成功に導くステップと導入のポイントについても解説します。
人材マネジメントとは?
人材マネジメントとは、経営戦略実現のために人材を「経営資源」として捉えて、その価値を最大化する一連の取り組みのことです。人的資源管理または人的資源マネジメント(HRM=Human Resource Management)とも呼ばれます。
ここでは、人材マネジメントへの理解を深めるために、類似する用語との違いを解説します。
人事管理や労務管理との違い
人事管理や労務管理と人材マネジメントは混同されがちですが、目的と役割が異なります。
- 人事管理や労務管理
人事管理は、採用や給与、福利厚生などの制度運用を適切に行うことが中心。また、労務管理は、労働時間の管理や法令順守といったコンプライアンスに重点を置く。 - 人材マネジメント
人材マネジメントは人事管理を基盤としながらも、人材を経営資源として戦略的に活用し、企業の成長や競争力強化につなげる。
人材マネジメントは「管理する」ことが目的なのではなく、「人材の価値を最大化する」ことに重点を置いている取り組みです。
タレントマネジメントとの違い
人材マネジメントとよく比較されるのが「タレントマネジメント」です。
タレントマネジメントは人材マネジメントの一部に位置づけられる概念で、人材マネジメントとは目的と管理範囲に違いがあります。
- タレントマネジメント
タレントマネジメントは、全従業員のスキルや能力、経験などの情報を一元管理し、経営戦略の実現を目的として戦略的な人材配置・育成・評価を行う取り組み。 - 人材マネジメント
人材マネジメントは組織運営全般を対象とし、採用から退職まで人事業務全体を通じて、人材を戦略的に管理・活用する包括的な取り組み。
人材マネジメントが重要視される背景
現代の企業環境において人材マネジメントが注目される背景には、少子高齢化による人材不足、働き方や価値観の多様化、そして企業間競争の激化があります。
日本では労働人口の減少により採用難が深刻化しており、既存人材の生産性向上と定着率向上が経営の大きな課題です。また、ワークライフバランス重視やリモートワークといった多様な働き方への対応も求められています。
さらに、激化する競争の中で持続的成長を実現するには、人材を戦略的な差別化要因として活用することが不可欠です。こうした流れを受け、近年は「人的資本経営」に注目が集まり、企業は人材への投資や育成状況を可視化する取り組みを進めています。第一生命グループでもその一環として「人的資本レポート」を公表し、自社の人材戦略や具体的な取り組みを開示しています。
このように、採用や給与、福利厚生といった従来の人事手法だけでは対応できない課題に対し、より戦略的なアプローチとして人材マネジメントが重要視されているのです。
▶第一生命ホールディングス「人的資本レポート」
人材マネジメントを構成する6つの要素

人材マネジメントに取り組む際は、従業員のライフサイクルを6つの要素に分けて考慮します。
その要素とは「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置」「休職・復職」の6つです。この6つの要素を一貫してマネジメントすることで、企業は人材の価値を最大化し、持続的な成長につなげることができます。
■人材マネジメントの構成要素
横にスライドしてください
|
項目 |
内容 |
|
採用 |
経営戦略にもとづき、必要な人材要件を定義し、適切な人材を確保する。企業理念に共感できる人材を迎えることは、長期的な組織力の向上にもつながる |
|
育成 |
入社時研修やOJT、専門スキル研修、資格取得支援などを通じて、従業員の能力を高め、キャリア形成を支援する |
|
評価 |
従業員の成果や能力を客観的に測定し、昇給・昇格などに反映する。透明性の高い評価制度は、モチベーションの向上につながる |
|
報酬 |
評価結果をもとに給与や賞与を決定し、従業員にあわせて福利厚生制度も整備する。成果に応じた公正な処遇や福利厚生は、働きがいとエンゲージメントを高める |
|
配置 |
従業員の適性やキャリア志向を考慮し、適材適所に配属・異動する。初期配属に加え、評価や育成の結果を踏まえた再配置も行い、個々の能力発揮を最大化する |
|
休職・復職 |
休職にあたっては円滑な手続きと知識の引き継ぎを行い、組織への影響を最低限に抑える。また、復職に際しても、スムーズな支援を行う ※なお、退職の場合、アルムナイ(退職者との関係維持)を重視し、退職者を外部協力者または再入社の可能性をもつ存在として位置づける |
人材マネジメントを成功に導くステップ
人材マネジメントを成功に導くには、前述した6つの構成要素を単に整備するだけでは不十分です。これらを効果的に機能させるためには、体系的な導入・運用のプロセスが必要となります。
ここでは、実践的な手順として、人材マネジメントを成功に導くステップを解説します。
ステップ1:経営戦略との整合性をとる
人材マネジメントを成功に導くには、まず経営戦略と人材戦略の方向性を一致させることが欠かせません。
事業目標の達成に必要な人材像を明確化し、中長期的な人材投資計画を策定することで、採用・育成・評価などの各要素が戦略的に機能します。
ステップ2:現状の可視化と課題の洗い出しを行う
次に重要なのは、自社の人材に関する現状を正しく把握することです。
人材についてのデータを収集・分析し、従業員のスキルや配置状況を可視化することで、組織の強みと弱みが明確になります。そこから人材要件とのギャップを特定し、改善の優先順位を整理することで、効果的な施策立案につなげることができます。
ステップ3:人材施策を立案し実行する
現状分析で明らかになった課題を解決するために、人材施策を設計・実行します。
例えば、採用の強化や研修制度の充実、評価基準の改善など、具体的な取り組みを明確化することが重要です。あわせて実行体制を整え、役割分担を明確にすることで、施策を段階的かつ着実に進められます。
ステップ4:PDCAを用いて改善を図る
人材施策を実行したら、定期的に効果を測定し、PDCAサイクルを回して改善を図ります。
効果測定の具体的な評価指標として、例えば、離職率の変化や従業員エンゲージメントのスコア、昇進・昇格率、採用コストの推移などが挙げられます。これらの成果や課題を数値化することで、問題点の早期発見が可能です。
測定結果から、改善を重ねて制度を最適化することが、人材マネジメントを継続的に成功へ導くことにつながります。
人材マネジメント導入時のポイント
人材マネジメントを成功に導くには、4つのステップを実践するだけでなく、導入時の工夫も重要です。
特に、社内の理解と協力を得ること、自社に合った仕組みを選ぶことが成果を左右します。ここでは導入時に押さえるべき2つのポイントを解説します。
人材マネジメントの目的を社内で共有する
人材マネジメントを導入する際のポイントとして、人材マネジメントの目的を社内で共有することが大切です。
経営層から現場まで目的を共有し、意識を統一します。人材マネジメントの必要性や期待される効果を明確に示すことで、従業員の不安をやわらげ、主体的な参加を促すことができます。
自社に合ったシステムやフレームを選定する
人材マネジメントを導入する際のポイントとして、企業規模や業界特性に応じて、自社に合ったシステムやフレームを選定することも大切です。
既存システムとの整合性や移行計画も考慮し、運用負荷とコストのバランスを取りながら導入することで、長期的に機能する仕組みとなります。
人材マネジメントの取り組み事例:第一生命保険
人材マネジメントを効果的に運用するには、人材データを収集・分析し、自社の規模や業界特性に合った仕組みを選ぶことが重要です。
第一生命保険株式会社では、タレントマネジメントシステムにより、社員の経歴やスキル情報を一元管理し、適切な配置や育成に活用しています。
社員側からもほかの社員の経歴などを確認でき、みずから情報収集を行って、キャリアの参考にしていくことが可能です。そして、社員はその情報をもとに、第一生命独自の社内公募制度「Myキャリア制度」にエントリーし、社員が望むキャリアを実現することもできます。
こうした仕組みにより、社員の主体的なキャリア形成と組織戦略を結びつけ、人材マネジメントの実効性を高めています。
まとめ
-
人材マネジメントは、人材を経営資源と捉え価値を最大化する取り組みである
-
少子高齢化や多様化する働き方などに対応するため、戦略的な人材活用が求められている
-
「採用」「育成」「評価」「報酬」「配置」「休職・復職」という構成要素を一貫して管理することが重要
-
人材マネジメントの成功には4つのステップ(整合性 → 現状分析 → 施策実行 → 改善)と導入時の工夫が不可欠
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。