ウェルビーイング経営の事例3選!企業が実際に取り組んだ施策を紹介
ウェルビーイング経営とは、従業員の心身の健康と幸福を重視する経営手法です。近年、従業員満足度や生産性の向上、優秀な人材の確保といった課題解決に向けて、多くの企業がウェルビーイング経営を導入し始めています。
しかし、自社で具体的にどう取り組めばよいか悩んでいる経営者や担当者も多いのではないでしょうか。
ここでは、ウェルビーイング経営の考え方や導入するメリット、そして取り組みを進めて成果を上げている企業3社の具体的な事例について解説します。
ウェルビーイング経営とは?
ウェルビーイング経営とは、企業が従業員のウェルビーイング(Well-being)を実現するために職場づくりを行う経営手法です。従業員の身体的・精神的・社会的な幸福を総合的に向上させることで、組織全体のパフォーマンス向上を目指します。
ウェルビーイング経営の目的は、従業員の幸福を考えた経営を行うことです。具体的には、柔軟な働き方の提供、メンタルヘルスケアの実施、職場環境の改善、コミュニケーションの活性化など、多角的なアプローチで従業員の働きがいと満足度を高めていきます。
ウェルビーイング経営と似た概念に「健康経営」がありますが、健康経営が企業側の視点で従業員の健康維持・促進を図る取り組みであるのに対し、ウェルビーイング経営は従業員視点での幸福を重視する点で違いがあります。
▼ウェルビーイングについて詳しくは、以下の記事をご参照ください
ウェルビーイング経営を導入するメリット

ウェルビーイング経営を導入することで、企業は以下のようなメリットを得られます。ここでは3つの主なメリットについて解説します。
従業員エンゲージメントが向上する
ウェルビーイング経営を導入することで、従業員エンゲージメントが向上するメリットが得られます。
従業員エンゲージメントとは、従業員が組織に対して持つ愛着や貢献意欲のことです。ウェルビーイング経営により従業員の心身の健康や働き方が支援されると、従業員のモチベーションが向上し、企業への愛着や仕事への主体性が強化されます。また、従業員エンゲージメントが向上すると、従業員が組織の目標達成に向けて積極的に関わるようになり、企業の競争力の向上も期待できるようになるでしょう。
▼従業員エンゲージメントについて詳しくは、以下の記事をご参照ください
採用力の強化や定着率が向上する
ウェルビーイング経営を導入することで、採用力の強化や定着率向上というメリットが期待できます。
ウェルビーイングを重視する姿勢は、働きやすい環境を求める求職者にとって魅力的な要素となり、優秀な人材を獲得しやすくなるでしょう。また、従業員エンゲージメントが向上することで定着率も改善され、離職率低下にもつながります。
業績や企業価値の向上につながる
ウェルビーイング経営の導入には、業績や企業価値の向上につながるメリットもあります。
まず、従業員の健康維持やメンタルヘルス対策に取り組むことで、体調不良による休職や離職を防ぐことができます。そして、従業員が心身ともに健康で意欲的に働ける環境が整うことで生産性の向上が見込め、長期的には業績の向上にもつながるでしょう。
さらに、ウェルビーイング経営への取り組みは、企業価値の向上にも影響します。近年、投資家から注目されているESG投資(環境・社会・企業統治を重視した投資)の観点から、従業員に目を向けた企業統治を高く評価される可能性も見込めます。
▼メンタルヘルス対策について詳しくは、以下の記事をご参照ください
ウェルビーイング経営の事例3選
ウェルビーイング経営に実際に取り組んでいる企業の中から、特に注目すべき事例を3つ紹介します。ここでは各社の具体的な施策内容やその効果について解説します。
味の素株式会社
味の素株式会社は、食品・バイオ・ファインケミカル事業を展開する総合食品企業です。同社では、従業員のウェルビーイングを人財資産の強化を支える基盤と位置づけています。
従業員の健康維持・増進と働きがいの向上が課題でしたが、「味の素グループで働いていると、自然に健康になる」を目指す姿に設定し、セルフケアの観点から健康づくりを推進しました。
その結果、健康状態の改善傾向や生活習慣の変化といった成果が見られ、従業員の意識変容および健康維持に資する環境整備が進んでいます。
【味の素株式会社:ウェルビーイング経営の具体例】
- 自分の健康データを確認できるポータルサイト「MyHealth」の活用
- 全従業員を対象とした栄養教育の実施。2025年度までに、延べ10万人を目標に教育機会を提供
- 社員食堂とのコラボ企画による栄養バランス改善
※参考:味の素株式会社「健康でいるための約束」「制度・福利厚生」
楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社は、インターネットサービス事業を中心とした総合事業会社です。同社では「Well-being First」を健康宣言として掲げ、従業員の心身の健康および社会的なウェルビーイングの向上を目指しています。
従業員が抱える健康課題として、運動不足、睡眠の質、体重管理の3点を明確化。その上で、それぞれの課題を感じている従業員の割合を年間約30%減らすことを目標に据え、さまざまな取り組みを行っています。
その結果、アブセンティーズムやプレゼンティーズム、従業員満足度の改善傾向が報告されており、健康意識および働きがいの向上につながる取り組みとなりました。
【楽天グループ:ウェルビーイング経営の具体例】
- 定期的なウェルビーイングサーベイによる従業員の状態把握
- 専門家を招いた健康セミナーの開催
- カフェテリアでの栄養バランスの取れた食事提供、フィットネスジムの整備
※参考:楽天グループ株式会社「健康・安全・ウェルネス」
第一生命グループ
第一生命グループは、生命保険を中心とした金融サービス事業を展開する企業グループです。同社では創業者の「従業員の保健衛生の面は十分考えよ」という言葉のもと、創業時より社員の健康増進を大切にする風土を醸成。
生命保険会社として健康の重要性を熟知している一方で、従業員自身の健康管理や働きがいの向上が課題でしたが、「生活習慣病予防」と「メンタルヘルス対策」を重点取組として推進することで、従業員の健康状態改善とエンゲージメント向上を目指しています。
その結果、従業員エンゲージメントの改善傾向が報告されており、社員の働きやすさと健康維持に資する環境整備が進んでいます。
【第一生命グループ:ウェルビーイング経営の具体例】
- 女性社員向けに全国約320ヵ所でマンモバス運行
- 社員の8割以上が登録する健康アプリ「QOLism(キュオリズム)」の導入
- セルフケア研修(受講率98.1%)やラインケア研修の実施
※参考:第一生命グループ「健康経営・労働安全衛生」
まとめ
- ウェルビーイング経営とは、企業が従業員のウェルビーイング(Well-being)を実現するために職場づくりを行う経営手法
- 健康経営が企業側の視点で従業員の健康維持・促進を図る取り組みであるのに対し、ウェルビーイング経営は従業員視点での幸福を重視する点で違いがある
- ウェルビーイング経営を導入することで、従業員エンゲージメントの向上、採用力強化や定着率向上、業績や企業価値の向上といったメリットが得られる
監修
渋田貴正(しぶた たかまさ)
税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士の4つの資格を保有。上級相続診断士®。富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
税理士登録後、税理士法人
V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。