人的資源とは?人的資本との違いや活用方法、事例を解説
少子高齢化による人材不足や、人的資本経営の重要性が叫ばれるなか、「人的資源」の適切な管理が企業の成長を左右するといわれています。しかし、「人的資源」と「人的資本」の違いや、どのようにマネジメントすればよいかなどが分からず、対応に悩む企業も少なくありません。
この記事では、人的資源の基本的な考え方や、人的資本との違いのほか、人的資源マネジメントの課題と解決策、実際の成功事例について解説します。
人的資源とは?
人的資源とは、企業が保有する経営資源のうち「ヒト」に関する要素を指す概念です。
モノ・カネ・情報と並ぶ重要な経営資源のひとつであり、従業員が持つ知識・経験・スキル・創造性など、人ならではの能力を価値として捉えます。これらの力は、組織の競争力や持続的な成長を支える原動力となります。
特に注目すべきは、人的資源が「価値を高められる資源」であるという点です。ほかの経営資源と異なり、採用・育成・配置・評価といった一連の人事プロセスを通じて、その価値を高めることが可能です。つまり、人的資源は企業にとって単なる労働力ではなく、戦略的に管理し、活かすべき存在といえます。
こうした背景から、人的資源のマネジメント、いわゆる「人的資源マネジメント(人的資源管理、ヒューマンリソース・マネジメント、HRM)」は、企業経営において欠かせない取り組みのひとつとなっています。
人的資源と人的資本の違い

人的資源と人的資本は、いずれも「ヒト」に関する経営概念ですが、捉え方や目的に違いがあります。
しばしば「人的資本経営が主流の現代において、人的資源という考え方は古い」といった誤解が見られますが、これは正しくありません。むしろ、人的資源の適切な管理があるからこそ、人的資本経営が成り立つのです。
人的資源は、企業が従業員を「経営資源」として所有・管理し、その配置や育成を通じて企業価値の最大化を図る考え方です。一方、人的資本は、従業員一人ひとりが持つスキルや経験、知識などを「価値を生み出す資本」として捉え、可視化・投資対象として重視する点に特徴があります。
つまり、これらはそれぞれが相互補完的な関係にある概念です。
人的資源と、人的資本の主な違いは、以下のとおりです。
■人的資源と人的資本の主な違い
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人的資源 |
人的資本 |
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基本的な考え方 |
企業が「ヒト」を所有・管理し、経営資源と捉える概念 |
「ヒトが持つ価値」を測り、投資対象とする概念 |
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誰の立場から重視されているか |
企業(内部資源として管理・活用する) |
投資家・市場(価値創造の源泉として評価する) |
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経営上の位置づけ |
労働力としての管理・配置・効率化を重視 |
能力やスキルを「投資対象」として育成・可視化することを重視 |
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情報開示・KPI |
特に求められていない |
情報開示やKPI設定が求められ、経営の透明性や持続可能性と結びつく |
▼人的資本経営については、以下の記事をご参照ください。
人的資源が注目される背景
近年、人的資源への注目が高まっている背景には、いくつかの社会的・経済的要因があります。
まず、少子高齢化による労働人口の減少により、人材の確保がかつてないほど難しくなっています。新規採用の強化だけでなく、既存の従業員をいかに育て、活かすかが企業にとって喫緊の課題です。
加えて、製品やサービスの差別化が難しくなる中、従業員の創造性や柔軟な対応力といった「ヒト」の力が、企業の競争優位を支える要素となりつつあります。
また、ESG(Environment/環境、Social/社会、Governance/企業統治)投資や人的資本経営という考え方の広がりも、人的資源の注目度を高める要因です。企業は、人的資源に関する情報を積極的に開示し、その価値を可視化・評価することが求められています。こうした社会的要求の高まりを背景に、従業員の育成や評価に対する戦略的なアプローチがより重要になっているのです。
人的資源マネジメントの課題
人的資源を有効に活用するためには、マネジメント上のさまざまな課題を乗り越える必要があります。ここでは、企業が直面しやすい主な3つの課題について解説します。
従業員との価値観のギャップ
人的資源マネジメントにおける課題は、従業員との価値観のギャップです。
現代の職場では、働き方やキャリアに対する価値観が多様化しています。特に、若年層と中高年層では「安定」を求めるか、「成長」を求めるかといった志向の違いが顕著です。このような価値観のギャップは、従業員との信頼関係の構築やモチベーション管理を難しくし、人的資源マネジメントの複雑化を招いています。
企業は、画一的な制度設計や一方的なマネジメントではなく、従業員一人ひとりの価値観に寄り添う柔軟な対応が求められています。そのためには、定期的な対話やキャリア面談の実施、個別の目標設定といった取り組みが必要不可欠です。
従業員の適切な配置・評価の難しさ
人的資源マネジメントの課題として、従業員の適切な配置・評価の難しさも挙げられるでしょう。
人材を適切に配置し、公正に評価することは、人的資源マネジメントの中核です。しかし、実際には従業員のスキルや志向、職場環境との相性を正確に把握することは容易ではありません。
また、成果主義が浸透する中で、評価制度への納得感をどう担保するかも大きな課題です。不公平な評価は、従業員のモチベーションを低下させ、離職にもつながります。そのため、スキル評価だけでなく、プロセスや行動面を含めた多面的な評価の仕組みを構築することが求められます。
従業員のモチベーションやエンゲージメントを高める仕組みの不足
人的資源マネジメントにおいては、従業員のモチベーションやエンゲージメントを引き出す仕組みの整備が欠かせません。やりがいや成長の実感が得られない職場では、従業員が自律的に働き、組織に貢献しようとする意欲が低下してしまいます。
特に、エンゲージメントが低い状態では、生産性の低下や離職率の上昇といった組織リスクにつながるため、マネジメント側が積極的に働きかける必要があります。
従業員が安心して働ける職場環境や、自分の成長を実感できる仕組みがなければ、人的資源としてのポテンシャルを十分に引き出すことはできません。心理的安全性や、キャリアパスの明確化といった取り組みが重要です。
▼従業員エンゲージメントについては、以下の記事をご参照ください。
人的資源マネジメントを効果的に行う施策

人的資源を戦略的に活用するためには、組織の仕組みやマネジメント体制を整えることが不可欠です。
従業員の能力や適性を正しく把握し、最適な配置と育成を実現するための施策を講じることで、組織全体の生産性や従業員エンゲージメントの向上につながります。
ここでは、人的資源マネジメントを効果的に行う4つの施策を紹介します。
人事データの戦略的活用(HRアナリティクス)
人事データを戦略的に活用するHRアナリティクスは、人的資源マネジメントの土台となる仕組みです。
従業員のスキルや経験、志向性といった情報を体系的に収集・分析することで、人材配置や育成に関する判断の質を高めることができます。こうした取り組みは、HRアナリティクスと呼ばれ、近年多くの企業が注目しています。
従来の勘や経験に頼る人材マネジメントから脱却し、データに基づいた意思決定を行うことで、人的資源をより的確に活用できるようになります。組織全体の適材適所を実現するためには、HRアナリティクスの整備が欠かせません。
マネジメント層の育成と育成責任の強化
人的資源マネジメントを現場で機能させるためには、管理職の育成能力を高めることが重要です。
上司が部下の特性や強みを理解し、適切なフィードバックや支援を行うことで、従業員の能力を最大限に引き出すことができます。その基盤となるのが、マネジメント層が「育成責任」を自覚し、果たしていく姿勢です。部下の成長を組織的な成果と捉え、意図的に育成の時間や機会を設けることが求められます。
育成責任を果たすためには、リーダーシップ研修やコーチング研修などを通じて、マネジメントスキルの向上を図ることが効果的です。育成責任を担う管理職が現場で機能することが、組織全体の持続的な成長につながります。
キャリアパスの整備
キャリアパスの整備は、人的資源マネジメントを推進するうえで重要な施策のひとつです。従業員が社内での成長イメージを持てるようになり、自律的な能力開発や定着率の向上につながります。
職務ごとのスキル要件や昇進ルートを明確にし、キャリア面談や社内公募制度を取り入れることで、適材適所の実現と戦略的な人材育成が可能です。キャリアの方向性が見えることで、人的資源としての活用価値も高まるでしょう。
タレントマネジメントの導入
タレントマネジメントを導入することで、個々の従業員の能力を最大限に引き出し、組織全体の人材ポートフォリオを強化することが可能になります。HRアナリティクスが人事データを活用して組織全体の傾向や課題を可視化する「分析の仕組み」であるのに対し、タレントマネジメントは、個々の従業員の能力や志向に応じて配置・育成を戦略的に進める「運用の仕組み」です。
具体的には、スキルや経験、キャリア志向といった個人情報をもとに、社内での最適な活躍の場を見極め、成長を支援する取り組みを指します。
たとえば、スキルマップや評価データを活用して職務とのマッチングを図ったり、将来的なリーダー候補の育成計画を立てたりすることが挙げられます。また、職務内容や成長ステップを明示し、キャリア面談や社内公募制度と組み合わせることで、従業員の潜在的な能力を引き出しやすくなるでしょう。
人的資源マネジメントの成功事例
人的資源マネジメントは、制度を整えるだけでなく、組織文化として定着させることが重要です。
ここでは、人的資源を戦略的に活用し、成果を上げている企業事例として、2つの企業の取り組みを紹介します。
株式会社資生堂
株式会社資生堂は、化粧品・スキンケア製品を中心としたグローバルブランドを展開する、日本を代表する化粧品メーカーです。人的資源である従業員を企業の競争力の源泉と位置づけ、経営の中心に据えています。
特徴的なのは、単なる制度導入にとどまらず、行動基準や評価の仕組みまでを一貫して設計している点です。たとえば、日本国内の管理職・総合職・美容職(生産技術職を除く)を対象とした「ジョブ型人事制度」の導入により、個々の職務に応じた配置と評価を実現しています。また、「TRUST 8コンピテンシー」と呼ばれる、資生堂独自の行動基準を設けることで、従業員の行動の質を高め、組織全体のパフォーマンス向上につなげています。
※参考:株式会社資生堂「人材育成と公正な評価」
株式会社日立製作所
株式会社日立製作所は、デジタルシステムやグリーンエナジーなど多岐にわたる事業をグローバルに展開する総合電機メーカーです。同社は従業員を経営資源として位置づけ、事業戦略の実現に向けて戦略的に人材の配置や管理を行っています。
特徴的なのは、職務を起点とした「ジョブ型人財マネジメント」により、グローバル共通の基盤で人材を管理している点です。具体的には、全職種・階層ごとに職務内容や責任を定義した「ジョブディスクリプション」を450種類作成し、各ポジションに求められる役割を明確化しています。また、管理職以上の全ポジションを対象とした「日立グローバルグレーディング(HGG)」により、職務の役割や職責の大きさをグループの統一基準で評価・格付けをし、その格付けに応じた給与体系を採用しています。
さらに、人材配置は会社による戦略的決定を基本としつつ、社内外から同時に公募する制度も活用することで、各ポジションに最適な人材を効率的に確保しています。
※参考:厚生労働省 多様な働き方の実現応援サイト「株式会社日立製作所」、株式会社日立製作所「日立製作所における人財施策」
まとめ
- 人的資源とは、企業が保有・管理する「ヒト」に関する経営資源であり、従業員の知識やスキルを戦略的に活かす考え方。
- 人的資源と人的資本は補完的な関係にあり、人的資源の適切なマネジメントが人的資本経営の基盤となる。
- 人事データの戦略的活用やマネジメント層の育成と育成責任の強化、キャリアパスの整備、タレントマネジメントの導入といった施策が、人的資源マネジメントの有効な手段となる。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。