休職中の従業員に対する給与の支払いは、通常とは扱いが異なります。企業は、休職者が安心して静養し、スムーズに業務へ復帰できるよう、休職中の給与について事前に説明し、手続きやサポートを行うことが大切です。
ここでは、休職中の従業員に対する、給与・賞与の支払いについて解説します。また、休職から復帰までに企業が行うことや、休職手続きを行う際の注意点についても触れますので参考にしてください。
休職中は原則、給与や賞与は支給しない
給与や賞与は労働の対価として支払うものですので、休職中は給与・賞与は支給しないとするのが一般的です。休職中の従業員の給与・賞与の扱いは、企業の就業規則や賃金規程、労働協約にもとづいて決まります。
そのため、就業規則などに「休職中の給与・賞与を一部支給する」などの記載があれば、企業には、定めに応じて休職者に対する給与・賞与の支払い義務が生じます。このようなケースでは、査定期間中の最低出勤日数や支給制限など、条件付きである場合が一般的です。
なお、上記のような規定がない限り、休職中の従業員は給与を受け取れませんが、公的医療保険制度から支給される傷病手当金などで、収入の一部を補填できる可能性があります。そのため、企業は従業員に安心して静養してもらうためにも、休職中に利用できる公的医療保険制度についても、きちんと伝えておくと良いでしょう。
公的医療保険制度についは、以下の外部サイトをご参照ください。
厚生労働省「我が国の医療保険について」
休職とは?
ここで、あらためて「休職」とは何かを解説します。
休職とは、病気やケガなど従業員の個人的な事情に応じて、企業が雇用契約を維持したまま労働義務を免除することです。休職の場合、雇用契約は維持されるため、従業員は解雇されることなく療養や休養に専念することができます。
休職の主な理由としては、病気やケガ、メンタルの不調、介護、育児などで、従業員が働くことが困難になった場合が該当します。
なお、休職に関する法律上の定めはなく、どのような休職制度を設けるかは各企業の裁量に委ねられています。そのため、企業側は就業規則や労働契約書で明確に制度内容を定めておくことが大切です。
代表的な休職制度には、以下のような種類があります。
私傷病休職
私傷病休職とは、業務外の事由による病気やケガの療養のために休職する制度のことです。例えば、がんの治療や交通事故によるケガの治療のために入院するなど、長期にわたり就労が困難な場合に適用されます。
なお、業務上の病気やケガの場合は労働災害となるので、労災保険が適用されます。労働災害は、業務上の病気やケガのほか、就業規則に明記されていなくても解雇が制限されるなど、法律で特別な保護を受けています。この点を混同しないように注意しましょう。
事故欠勤休職
事故欠勤休職とは、傷病以外の理由により休職する制度のことです。例えば、従業員が逮捕・拘留され、その期間が一定期間に及んだ場合などに適用されます。
自己都合休職
自己都合休職とは、自己啓発活動など従業員個人の事情で長期間就労できない場合に休職する制度のことです。例えば、災害復興ボランティアへの参加、青年海外協力隊への参加などの場合に適用されます。
自己都合休職制度については、さまざまな自己啓発活動を認めることで従業員のエンゲージメントやスキルの向上につながり、結果的に生産性の向上が期待できるとして導入する企業もあります。
留学休職
留学休職とは、従業員が、海外留学をするために休職する制度です。
サバティカル休暇を導入している企業は、自己都合休職の理由として留学を認めている場合があります。サバティカル休暇とは、一定期間働いた従業員に対して、自己啓発やリフレッシュを目的とした長期の休暇を付与する休暇制度のことです。
公職就任休職
公職就任休職とは、従業員が議員や知事、市町村長などの公職に就き、会社の業務を行えない場合に休職する制度です。労働基準法第7条に、労働者が公務を行うのに必要な時間を会社に請求した場合、会社は拒めないと定められています(公民権行使の保障)。
従業員が裁判員に選ばれた場合も、多くは公職就任休職を適用します。
起訴休職
起訴休職とは、刑事事件で起訴された従業員を休職扱いにする制度です。
従業員からの申し出は必要なく、会社の判断で適用できますが、身柄拘束により業務が行えない、企業の社会的信用が著しく損なわれるなど、休職命令が必要となる合理的理由が求められます。「判決が確定するまで」といった形で期間を設けるのが一般的です。
休職と欠勤・休暇・休業の違い
休職と似た用語には、欠勤・休暇・休業があります。ここでは、それぞれの用語について、休職との違いを解説します。
■休職・欠勤・休暇・休業の違い
休職と欠勤の違い
欠勤とは、従業員が所定の労働日に自己都合で出勤しないことです。突発的なものであり、長く続くと解雇の理由になります。欠勤では、給与は支給しません。
一方の休職は、企業が長期間、労働を免除する制度であり、一般的には計画的に行われる点が、欠勤とは異なります。
休職と休暇の違い
休暇とは、労働義務のある日に、従業員の申請により企業が労働を免除する制度です。
法律で定められた有給休暇(年次有給休暇)や、会社独自の制度による特別休暇(慶弔休暇、リフレッシュ休暇など)が該当します。休暇は通常、1日単位や数日間の短期的な取得を前提としており、休暇中は給与が支給されるのが一般的です。
一方の休職は、法律上の義務はなく、各企業の就業規則で定めることができます。企業が長期間にわたって労働を免除し、給与は支給されません。
休職と休業の違い
休業とは、会社側の都合または法律で定められた制度によって、従業員との雇用契約を維持したまま、長期的に業務を行わないことを認める制度です。例えば、店舗改装により一定期間お店を閉める場合や、法定の制度である育児休業・介護休業などが該当します。一般的に、休業中の給与は支給しません。
一方の休職は、会社が独自に定める制度であり、従業員の個人的な事情を理由として労働の免除を認める点が異なります。
休職から復帰までに企業が行うこと
従業員から休職の申し出を受けた場合、企業は手続きとともに、職場復帰までのサポートも適切に行う必要があります。
ここでは、従業員の休職から復帰までに会社が行うべきことの流れを、休職前にできるサポートを含めて解説します。
団体長期障害所得補償保険(GLTD)に加入しておく
従業員が休職する前にできるサポートとして、団体長期障害所得補償保険(GLTD)に加入しておくことをおすすめします。GLTDとは、従業員が病気やケガで長期間働けなくなった場合に、所得の一部を補償する保険のことです。
一般的に、休職中は給与が支払われません。また、公的医療保険の給付である傷病手当金は最長で1年6ヵ月の期限があり、支給される金額も月給のおよそ3分の2です。そのため、従業員にとって、病気やケガによる治療の長期化で収入が途絶えることは避けたいリスクとなり、長引けば退職という選択をする可能性が高まります。また、企業にとっては、就業不能状態が長期化することは生産性の低下を招き、退職による人材流失は避けたいところです。
そこで、会社が福利厚生の一環としてGLTDに加入しておくことで、長引く休職でも従業員の所得の一部を補償します。経済的な不安が取り除かれるため、従業員は安心して休職することができるでしょう。会社による手厚いサポートがあることで、従業員エンゲージメントや定着率のアップが見込めます。
休職届の受理・従業員との面談をする
従業員が休職する際は、休職届を受理し、従業員との面談を行いましょう。
なお、従業員からの休職届を受理する際、自社の規則に則って、診断書などの必要書類があればいっしょに提出してもらいます。休職する従業員と面談し、休職中の連絡方法を相談するほか、復職時の手続き内容の確認なども行います。
社会保険の手続き・傷病手当金などの情報共有をする
休職する従業員と面談する際、社会保険の手続き・傷病手当金などの情報共有も行います。
休職中も社会保険料や税金の支払い義務は従業員にあります。通常は給与から引き去りますが、休職中は給与の支給がないので、どのような方法で支払ってもらうか従業員と話し合っておきましょう。
社会保険の手続きを行う一方で、従業員が安心して休職できるように、利用できる傷病手当金などの情報はしっかり共有しておきます。利用できそうな制度の概要、受給要件、必要書類、手続きの方法、保障を受け取れる期間や金額などを共有することは、従業員の不安を取り除くうえで大切なことです。
団体長期障害所得補償保険の請求方法なども、しっかり伝えておきましょう。
職場復帰のためのサポートをする
従業員が休職に入った後は、職場復帰のためのサポートを行いましょう。
休職者の状態に合ったペースで定期的に連絡をとり、休職者の状態を把握しておくことが大切です。メンタルヘルスの不調などで本人と連絡するのが難しい場合は、本人の同意を得たうえで、家族に連絡を代行してもらう方法もあります。
従業員が回復し、主治医により職場復帰が可能との判断が出たら、職場復帰の可否を慎重に判断します。
復帰が可能と判断できたら、復帰スケジュールや業務上の配慮を盛り込んだ職場復帰支援プランを作成し、職場復帰までしっかりとサポートすることが大切です。
復帰後のフォローアップをする
従業員が休職から復帰した後は、管理監督者による観察と支援、産業医による定期的な面談などのフォローアップを行います。必要に応じて職場復帰支援プランを見直しながら、安定した状態になるまでサポートを行いましょう。
休職手続きを行う際の注意点
従業員の休職手続きから復帰サポートまでを行う際、いくつかの注意点があります。特に注意しなければいけないのは、以下のとおり、個人情報などのプライバシーに関わる部分と、復帰の判断についてです。
休職者のプライバシーに配慮する
休職手続きを行う際の注意点として、休職者のプライバシーに配慮することが挙げられます。以下のポイントを守って配慮することが重要です。
- 情報収集は必要最小限にする
健康状態や診断内容など、職場復帰支援や安全配慮義務に必要な範囲の情報だけを収集します。その際、情報の利用目的を明確に説明し、休職者本人から同意を得ることを忘れずに行います。
- 情報の取り扱いを限定する
収集した情報をどこまで、誰に開示するかを明確にし、情報の取り扱いを必要最低限の範囲で共有します。心身の状況について医師や保健スタッフなどの外部機関と連携する場合も、プライバシー保護対策を徹底しましょう。
- 窓口を一元化する
休職者への連絡窓口を1人または少人数に絞り、情報管理のリスクを最小限にします。窓口を一元化することで、休職者が安心して療養や休養に専念できる環境を提供できます。
復職の可否判断は慎重に行う
休職手続きを行う際の注意点として、復職の可否判断は慎重に行うことが挙げられます。
精神疾患や長期療養の場合、復職のタイミングを誤ると、再発やパフォーマンス低下のリスクがあります。復職の可否を判断する際には、以下の点を考慮することが大切です。
- 産業医の意見を重視する
主治医から復職許可が出ても、復職可否については慎重な判断が必要です。職場環境や業務内容に対して理解がある産業医の意見を確認するようにしましょう。
- 本人の意思と業務負荷などのバランスをとる
本人が復職を強く希望していても、業務負荷や職場環境が適切でない場合は、慎重な判断が求められます。休職者の状況を確認したうえで、復職前に試し勤務(リワークプログラム)を実施するのも効果的です。
- 柔軟な復職プランを作成
復職時には、段階的に業務を増やすスケジュールを組み、必要に応じて業務内容の見直しや職場環境の整備、定期的な面談などのフォローを行います。
まとめ
- 休職中の従業員への給与・賞与の支払いは、会社の規則に従う。給与・賞与の支払いはなしとするのが一般的
- 休職とは、従業員の個人的な理由により、会社の判断によって、特定の従業員に対して雇用契約を維持したまま労働する義務を免除すること
- どのような休職制度を設けるかは、会社に任されている
- 従業員から休職の申し出があったら、会社は手続きを行うとともに、復帰までのサポートを行う
- 休職者のプライバシーに十分配慮するとともに、復帰の判断は慎重に行う必要がある
監修
渋田貴正(しぶた たかまさ)
税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士の4つの資格を保有。上級相続診断士®。富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年に独立し、司法書士事務所開設。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。