アジリティとは?ビジネスでの意味や高めるポイントを解説

アジリティとは?ビジネスでの意味や高めるポイントを解説
公開: 2025.04.22 更新:
アジリティとは?ビジネスでの意味や高めるポイントを解説

変化の激しい現代ビジネスにおいて、企業の競争力を高めるには「アジリティ」が欠かせません。しかし、その重要性が語られる一方で、アジリティの意味の捉え方があいまいな人も多いようです。

ここでは、アジリティとは何か、注目される背景とともに、アジリティ向上のメリットやアジリティを高めるポイントについて解説します。

目次

アジリティとは?

アジリティとは、英語の「agility」からきた言葉で、日本語では「機敏性」「軽快さ」「敏捷性」などと訳されます。元々はスポーツの分野でよく使われていた用語ですが、近年ではビジネスの場でも広く使われるようになりました。

ビジネスにおけるアジリティは「迅速で適切な対応力」という意味です。企業や経営において、目まぐるしく変わる環境でも「即時に対応できる機敏性」といった意味も含みます。
つまり「アジリティが高い企業」とは、環境の変化に対し、素早く的確な判断と対応ができる企業のことです。 

なお、アジリティと似た用語に「アジャイル(agile)」がありますが、これはアジリティの形容詞形です。現代においてアジャイルは特定の価値観や手法を指すことが多く、例えば「アジャイル経営」は、市場の変化に迅速に対応し、顧客のニーズを満たす経営スタイルのことを指します。

アジリティが注目される背景

現代社会において、ビジネスでアジリティが注目される背景には、変化のスピードがますます速くなっていることが挙げられます。新しい技術やサービスが次々と生まれ、顧客のニーズも日々変化する一方で、気候変動や地政学的な問題など、予測不可能な事態も増えているといえるでしょう。

気候変動は、自然災害の増加や資源の枯渇といった形で、企業活動や経済全体に大きな影響を与えます。例えば、異常気象による生産ラインの停止や物流の混乱、環境規制の強化など、企業が直面するリスクはさまざまです。また、地政学的な問題は、国家間の紛争や貿易摩擦、エネルギー資源をめぐる争いなど、国際的な政治や経済の動向によって発生する課題を指します。
これらの要因に迅速かつ柔軟に対応する力が、企業に求められているのです。

現代は、VUCAの時代と呼ばれています。VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4つの言葉の頭文字をとった造語です。この用語が示すように、未来を予測することが難しい状況では、アジリティの高い企業が競争優位性を発揮します。ビジネス環境の変化を的確に捉え、柔軟に対応できるアジリティは、企業の成功を左右する重要な要素として注目されているのです。

アジリティを高めるメリット

企業がアジリティを高めるメリットは、一言でいえば、変化が激しく不確実性の高い現代ビジネスにおいて、安定的な成長を続けられる可能性が高まることです。具体的には、以下のようなメリットが期待できます。

企業の競争力が高まる

アジリティを高めるメリットのひとつは、企業の競争力が高まることです。
新しい技術が次々に登場し、市場が急速に変化する場合、アジリティを高めることで、競合に先駆けて新製品を市場に投入し、競争を勝ち抜けるようになるでしょう。

アジリティの高い企業であれば、例えば、AI技術の世界的な普及を受けて、競合が市場参入を検討しているあいだにAI技術を搭載したデバイスをいち早く製品化し、収益の増加やブランド力の向上につなげることが可能です。これにより、新しい市場におけるシェアを獲得し、競争優位性を確立できます。
アジリティの向上により、移り変わるニーズに素早く対応でき、企業の競争力を高めることが期待できます。

顧客満足度が高まる

アジリティの向上により、顧客満足度が高まることもメリットのひとつです。
企業のアジリティが向上すると、市場の変化への対応力が高まります。市場のトレンドが変化した際や、顧客ニーズが多様化した際にも、即座に情報を集め、新しい戦略を立てて対応できるため、顧客の期待に応える商品やサービスを提供することが可能です。

例えば、アジリティの高い企業は、健康志向が高まった市場で、迅速に健康飲料を開発・発売することで、消費者の新しいニーズに応えられます。このスピード感が、顧客の満足度向上につながります。

優秀な人材を確保しやすくなる

アジリティを高めることで、優秀な人材を確保しやすくなるメリットがあります。
変化が激しい現代においては、求職者も「不確実性の高いこの時代に成長を続けていけるか」「状況に合わせて変化する柔軟性があるか」といった目で企業を評価しています。アジリティが高く、柔軟に変化できるカルチャーを持った企業ほど、このような求職者に選ばれやすく、優秀な人材を確保しやすいといえるでしょう。

例えば、リモートワークが普及し始めた際、アジリティの高い企業は迅速に環境を整備し、柔軟な働き方を導入しました。その結果、従業員満足度を高めるだけでなく、求職者にも「働きやすい企業」として評価され、優秀な人材の確保につながっています。
アジリティを高めることで、変化に強い企業を築き、企業の未来を支える人材の獲得を実現できるのです。

アジリティが高い企業の特徴

アジリティが高い企業には、いくつかの共通する特徴があります。
以下に紹介する特徴を備えている企業は、変化に迅速かつ的確に対応できる企業として評価されやすいといえるでしょう。

成し遂げたいビジョンが浸透している

アジリティの高い企業は、企業が成し遂げたいビジョンが全従業員に浸透しているという特徴があります。
ビジョンが浸透していれば、不測の事態が発生しても、従業員一人ひとりが迅速かつ適切な行動をとることができるでしょう。

優れた情報収集能力がある

アジリティが高い企業の特徴のひとつに、優れた情報収集能力があります。
変化の激しい市場で迅速かつ的確な判断を行うためには、社内外の情報を幅広く収集し、活用することが不可欠です。収集する情報には、市場動向や消費者ニーズ、競合他社の状況だけでなく、最新の技術や業界トレンドなども含まれます。
アジリティが高い企業では、従業員が積極的に外部環境を調査し、社内でも活発な意見交換を行う文化が根付いているといえるでしょう。

状況判断能力に優れ、問題解決が早い

アジリティが高い企業は、状況判断能力に優れ、問題解決が早い点が特徴です。
問題が発生した際には現場の情報をリアルタイムで収集・分析し、スピーディーに対応することで、早期の問題解決を実現します。問題解決が早ければ、業務を停滞させることなく迅速に進められるでしょう。

柔軟な発想力と応用力に優れている

アジリティが高い企業は、柔軟な発想力と応用力にも優れている特徴があります。
市場の変化に対応するためには、慣例にとらわれず、新しいアイディアを活かすことが重要です。
一見、事業とは関係がなさそうな新しい技術を、柔軟な発想で独自の製品に応用し、新たな価値をつけて競争の激しい市場に投入することができるでしょう。
アジリティの高い企業は、予期せぬ事態にも柔軟に対応し、新しいチャンスをつかむ力を持っているといえます。

アジリティを高めるポイント

アジリティを高めるには、企業全体の体制や業務プロセスを見直し、柔軟で迅速な意思決定ができる企業文化を醸成することが必要です。以下では、具体的なポイントを解説します。

従業員エンゲージメントを高める

アジリティの向上につながるポイントのひとつが、従業員エンゲージメントを高めることです。
経営理念やビジョンを従業員と共有し、その理解を深めることで、従業員同士が共通の目標に向かって団結しやすくなります。また、従業員の不満の声をヒアリングし、企業が問題解決に真摯に取り組む姿勢を示すことも、従業員エンゲージメントを高めるうえでとても重要です。
このような取り組みにより、従業員は自発的に自社に貢献したいという意欲を持ちやすくなり、非常時でも迅速かつ適切な判断ができるようになるでしょう。

例えば、ある企業では、定期的に従業員エンゲージメントの調査を実施し、業務上の課題だけでなく、個人的な悩みや思いに至るまで丁寧にヒアリングを行いました。調査を通じて経営層への不満や不信感も聞き出し、その声に真摯に向き合って具体的な改善策を講じたことで、従業員との強固な信頼関係を構築。
さらに、従業員一人ひとりのキャリアを考慮した教育プログラムを行い、個人の自律と成長を支援。個の力を最大限に活かす経営に努めることで、組織全体の柔軟性と迅速な対応力を高めたそうです。
その結果、不測の事態が発生しても業績の安定を維持し、従業員のエンゲージメントも平常時と変わらない状態を保つことに成功しています。

従業員エンゲージメントについては、以下の記事をご参照ください。

業務プロセスを見直す

アジリティを高めるには、業務プロセスを見直すこともポイントです。
非効率な業務プロセスは、スピードを阻害する要因になります。問題のあるプロセスを見直し、不要な手順を排除するだけで、意思決定や対応のスピードを向上させることが可能です。
また、AIなどの新しい技術やデジタルツールを導入して作業を効率化することも、迅速な判断や行動がしやすい環境づくりにつながります。

例えば、ある企業では、特定の従業員の経験やスキルに依存する業務が多く、情報共有の不足から対応の遅れが課題となっていました。そこで、業務フローを標準化し、タスク管理や進捗状況を可視化できるシステムを導入。さらに、現場の従業員が必要な手順や情報を瞬時に確認できるマニュアル、およびデジタルツールを整備しました。これにより、作業の属人化が解消され、誰でも一定の品質で業務を行えるようになりました。
その結果、業務のスピードと精度が向上し、突発的な問題にも柔軟かつ迅速に対応できるようになったといいます。標準化されたプロセスが組織全体のアジリティを高め、効率的な運営につながっています。

現場の従業員に裁量を与える

アジリティを高めるには、現場の従業員に業務遂行に関する裁量や顧客対応の決定権を与えることもポイントです。
現場の従業員が商品やサービスの提供方法、顧客の要望に応じた柔軟な対応、業務改善の提案といった判断をその場で行えるようにすれば、迅速な意思決定が可能になります。特に、顧客と接する現場での判断が早ければ、顧客満足度の向上やクレーム対応の迅速化につながるでしょう。
一人ひとりのリーダーシップも鍛えられるため、組織全体としての対応力や柔軟性が高まり、結果として企業全体のアジリティの向上が見込めます。

スキルアップできる環境を整える

アジリティを高めるには、従業員がスキルアップできる環境を整えることもポイントのひとつです。
企業全体のアジリティは、従業員一人ひとりのアジリティの高さに比例します。リスキリング(新しい業務に就くため、働く人が新しいスキルを身につけること)など、教育やトレーニングの機会を提供することで、従業員のスキルアップを促せます。さらに、学んだことを実践する環境を整えることで、現場での即戦力として活かされ、企業全体のアジリティ向上につながるでしょう。

リスキリングについては、以下の記事をご参照ください。

まとめ

  • ビジネスにおけるアジリティとは「迅速で適切な対応力」であり、企業や経営において、目まぐるしく変わる環境でも「即時に対応できる機敏性」といった意味を含む
  • アジリティが企業に注目される背景は、新しい技術やサービスが次々と生まれ、顧客のニーズも日々変化する一方で、気候変動や地政学的な問題など、予測不可能な事態も増えていることが挙げられる
  • アジリティが高い企業には「成し遂げたいビジョンが浸透している」「優れた情報収集能力がある」「状況判断能力に優れ、問題解決が早い」「柔軟な発想力と応用力に優れている」といった特徴がある
  • 企業のアジリティを高めるには「従業員エンゲージメントを高める」「業務プロセスを見直す」「現場の従業員に裁量を与える」「スキルアップできる環境を整える」などがポイントである
監修
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渋田貴正(しぶた たかまさ) 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士の4つの資格を保有。上級相続診断士®。富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年に独立し、司法書士事務所開設。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。

    
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