ワークエンゲージメントとは?企業と人材が成長する施策を解説

ワークエンゲージメントとは?企業と人材が成長する施策を解説
ワークエンゲージメントとは?企業と人材が成長する施策を解説

企業の業績向上や従業員の定着率アップに向けて、従業員の働きがいをどう高めるか悩んでいませんか?
近年注目されている「ワークエンゲージメント」は、従業員が仕事に熱意を持ち、活力を感じながら取り組む状態を指し、人的資本経営を推進するうえで欠かせない概念です。

ここでは、ワークエンゲージメントについて触れるほか、ワークエンゲージメント向上に取り組むことで得られるメリット、ワークエンゲージメントを向上させる施策を解説します。

目次

ワークエンゲージメントとは?

ワークエンゲージメントとは、厚生労働省の「厚生労働省 働き方・休み方改善ポータルサイト」によると「仕事に誇りとやりがいを持ち、いきいきと活力高く働いている状態」と定義されています。

<ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い>
ワークエンゲージメントと似た用語に「従業員エンゲージメント」がありますが、両者には明確な違いがあります。
従業員エンゲージメントは「会社や組織との信頼関係や貢献意欲」に焦点を当てた概念であるのに対し、ワークエンゲージメントは「仕事そのもの」に対する関わりの深さや情熱に重きを置いた概念です。つまり、誰のために働いているか(=組織)ではなく、何のために働いているか(=仕事)に注目する点が大きく異なります。

▼従業員エンゲージメントについては、以下の記事をご参照ください。

ここでは、ワークエンゲージメントの理解を深めるために、3つの構成要素や関連する概念について解説します。

ワークエンゲージメントを構成する3つの構成要素

ワークエンゲージメントは、従業員が高いパフォーマンスを発揮するための心理的状態を、次の3つの要素に分類して捉えることができます。

■ワークエンゲージメントの概念

ワークエンゲージメントの概念

  • 活力
    「活力」は、仕事に対して体力的・精神的にエネルギーが満ちている状態を意味します。元気でいきいきと働けているかどうかが重要とされます。
  • 熱意
    「熱意」は、仕事に誇りを持ち、やりがいや意義を感じながら前向きに取り組んでいる姿勢を指します。単なる作業ではなく、価値のある仕事だと感じられることがポイントです。
  • 没頭
    「没頭」は、仕事に深く集中し、時間を忘れて取り組むような状態を指します。外部の雑音に影響されず、みずからの仕事に没入できることが特徴です。

この3つの要素がバランスよく満たされている状態こそが、理想的なワークエンゲージメントであるといえるでしょう。

ワークエンゲージメントに関連する概念

ワークエンゲージメントの理解をさらに深めるためには、関連する心理状態との違いも押さえておくことが重要です。ここでは、ワーカホリズム、リラックス、バーンアウトという3つの概念を紹介します。

■ワークエンゲージメントに関連する概念

ワークエンゲージメントに関連する概念

  • ワーカホリズム(仕事中毒)
    「ワーカホリズム」は、活動水準が高く、一見すると熱心に働いているように見えますが、内面的にはストレスや義務感に突き動かされている状態です。
    活力や熱意に欠け、没頭はしていてもポジティブな感情を伴わない点で、ワークエンゲージメントとは本質的に異なります。

  • リラックス(職務満足感)
    「リラックス」は、仕事に対してポジティブな感覚はあるものの、没頭度が低く、集中力や挑戦意欲に欠けている状態です。心身の健康は保たれているものの、積極的な働きかけが見られないため、エンゲージメントの観点では不十分といえます。

  • バーンアウト(燃え尽き症候群)
    「バーンアウト」は、仕事への強い関与のあとに疲労や無力感が蓄積し、活力・熱意・没頭すべてを喪失した状態です。エンゲージメントの真逆に位置づけられる概念であり、早期のケアや予防が必要となります。

これら3つの概念を対比的に理解することで、ワークエンゲージメントがどのような心理状態を目指すべきかがより明確になります。

ワークエンゲージメント向上に取り組むことで得られるメリット

ワークエンゲージメントの向上は、従業員一人ひとりの働きがいを高めるだけでなく、組織全体の成果にもつながります。
特に、人的資本経営が注目される現在において、従業員のエンゲージメント状態を把握し、改善に取り組むことは、企業が「人材を資本として捉える姿勢」を示すうえでも欠かせない取り組みです。
ここでは、具体的に得られるメリットを解説します。

▼人的資本経営については、以下の記事をご参照ください。

職場環境が改善する

ワークエンゲージメント向上に取り組むことで、職場環境が改善するメリットが期待できます。
仕事に主体的に取り組む従業員が増えると、職場の改善提案や意見交換が活発になる効果が期待できます。その結果、組織全体で業務プロセスや制度の見直しが進み、働きやすい環境づくりにつながるでしょう。

従業員の心身の健康状態が向上する

ワークエンゲージメント向上に取り組むことで、従業員の心身の健康状態が改善するメリットが得られるでしょう。
仕事に熱意を持ち、没頭できる状態はポジティブな感情を生み出しやすく、結果としてストレスの軽減につながるといえます。その積み重ねが、メンタルヘルス不調の予防や健康維持につながり、安心して働ける職場づくりを後押しします。

離職率が低下し定着率が向上する

ワークエンゲージメント向上に取り組むことで、従業員の離職率が低下し、定着率が向上するといったメリットが期待できます。
仕事にやりがいや成長の手応えを感じやすい状態は、転職意向を持ちにくくします。その結果、長期的に働き続ける従業員が増え、採用や教育にかかるコスト削減にもつながるでしょう。

生産性と業績が向上する

ワークエンゲージメント向上に取り組むことで、生産性と業績が高まるメリットが得られます。
意欲的に働く従業員は、自発的に改善や挑戦を行い、成果を積み上げやすくなります。その結果、組織全体のパフォーマンスが向上し、業績アップに直結するでしょう。

顧客満足度とイノベーションが向上する

ワークエンゲージメント向上に取り組むことで、顧客満足度とイノベーションの向上というメリットが得られます。
従業員の仕事に対する高い意欲は、顧客対応やサービスの質に反映されやすくなり、顧客満足度の向上が見込めるでしょう。さらに、主体的に考える文化が根付くことで新しい発想や提案が生まれ、イノベーションの促進効果も見込めます。

ワークエンゲージメントの向上に不可欠な2つの資源

ワークエンゲージメントを高めるためには、従業員本人の努力だけでなく、組織として支える仕組みも欠かせません。
特に重要とされるのが「個人の資源」と「仕事の資源」という2つの観点です。これらは相互に作用し合い、従業員のモチベーションやパフォーマンスを支える基盤となります。ここでは、それぞれの資源について解説します。

仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とワーク・エンゲイジメントについて

※引用:厚生労働省「第2-(3)-8図 仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とワーク・エンゲイジメントについて

個人の資源(心理的資本・成長実感)

ワークエンゲージメント向上に欠かせないのが「個人の資源」です。
個人の資源とは、従業員が心理的に安定し、前向きに働くための内的要因を指します。具体的には、自己効力感(自分ならできるという感覚)、楽観性、レジリエンス(逆境からの回復力)、そして成長実感などが挙げられます。
個人の資源が充実している従業員は、困難な状況でもモチベーションを保ちやすく、主体的に仕事へ取り組むことが可能です。反対に、資源が不足していると「やらされ感」が強くなり、ストレスや疲労が蓄積しやすくなるでしょう。

そのため企業は、従業員が自分の仕事を「みずからの意思で取り組んでいる」と感じられるよう支援することが重要です。キャリア形成の機会を提供したり、成果を正しく評価したりすることで、成長実感を得やすい環境づくりが求められます。

仕事の資源(職場環境・支援体制)

もう一つ、ワークエンゲージメントの向上に重要な要素が「仕事の資源」です。
仕事の資源とは、上司や同僚からのサポート、裁量度の高い仕事、適切な評価制度、チームワークなど、従業員が働くうえで得られる外的な支えを指します。
また、従業員の能力や経験に見合った「適度にチャレンジングな目標」を設定することも重要です。過度に難しい課題はストレスにつながり、簡単すぎる業務ではやりがいを失いやすくなります。適切な水準の目標設定により、成長実感や達成感が生まれ、ワークエンゲージメントの向上が見込めるでしょう。

このように仕事の資源が整った職場では、従業員は安心して挑戦でき、主体性を発揮しやすくなります。企業がチームビルディングや制度設計を通じて働きやすい職場環境を整えることで、従業員が本来の仕事に集中でき、組織全体の成果向上につながります。

ワークエンゲージメントを向上させる施策

ワークエンゲージメントを向上させるためには、個人の資源と仕事の資源の両方を意識した施策が効果的です。
従業員一人ひとりの成長実感や自己効力感を支える取り組みと同時に、職場環境や制度面での支援を充実させることが求められます。ここでは、企業が実践できる具体的な施策を紹介します。

フィードバックと成長支援

ワークエンゲージメントを高めるためには、従業員が成長を実感できる仕組みが重要です。
定期的な1on1や評価制度の透明化は、自分の努力や成果を客観的に把握する機会となり、自己効力感を高めます。

  • 個人の資源:成長実感や自己効力感を高め、前向きに働き続ける意欲を維持できる

  • 仕事の資源:上司からのフィードバックや評価制度の整備により、安心して働ける職場環境を実現できる

コミュニケーション活性化

ワークエンゲージメントを高めるためには、心理的安全性のあるコミュニケーション環境が欠かせません。
部署やチームを超えたオープンな対話が促されることで、従業員同士の信頼感が生まれ、主体的に意見を出しやすくなります。

  • 個人の資源:心理的安全性が高まることでストレスが軽減され、主体性を発揮しやすくなる
  • 仕事の資源:職場の支援体制やチームワークが強化され、働きやすい組織文化が形成される

柔軟な働き方・制度設計

ワークエンゲージメントを高めるためには、従業員一人ひとりのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を可能にする制度設計が効果的です。
例えば、リモートワークやフレックスタイム制度などの導入は、業種によっては仕事と生活の調和を実現し、働きやすさとエンゲージメント向上を両立させる施策のひとつです。

  • 個人の資源:ライフスタイルに合った働き方を選択できることで、ストレスが軽減され、自己効力感を維持しやすくなる
  • 仕事の資源:柔軟な制度や仕組みにより、従業員が安心して働ける環境が提供される

成果を測定

ワークエンゲージメントの取り組みを効果的に進めるためには、定期的にその成果を測定することが重要です。
代表的な方法として、「ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度(Utrecht Work Engagement Scale:UWES)」があり、従業員の活力・熱意・没頭の3要素を17項目の質問で測定し、数値化できます。
※参考:慶應義塾大学 総合政策学部 島津明人研究室「ワーク・エンゲイジメント(UWES)

  • 個人の資源:自分の状態を客観的に把握でき、改善のきっかけや自己認識の深化につながる
  • 仕事の資源:組織全体のエンゲージメント状況を把握でき、改善施策に反映しやすくなる

成果を測定し定期的に振り返ることで、改善サイクルを回しやすくなり、ワークエンゲージメントの持続的な向上につながるでしょう。

まとめ

  • ワークエンゲージメントとは、厚生労働省が「仕事に誇りとやりがいを持ち、いきいきと活力高く働いている状態」と定義する心理状態
  • ワークエンゲージメントの構成要素は「活力」「熱意」「没頭」の3つであり、これらがバランスよく満たされることで従業員は高いパフォーマンスを発揮できる
  • ワークエンゲージメント向上のメリットには、職場環境の改善、心身の健康増進、離職率低下、生産性・業績向上、顧客満足度やイノベーションの向上がある
監修
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渋田貴正(しぶた たかまさ) 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士の4つの資格を保有。上級相続診断士®。富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。

    
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