従業員エンゲージメントとは?向上させるメリットと施策を解説

従業員エンゲージメントとは?向上させるメリットと施策を解説
従業員エンゲージメントとは?向上させるメリットと施策を解説

従業員エンゲージメントとは、従業員が会社の理念に共感し、自発的に貢献したいと思う意欲のことです。
現代の日本では、労働人口の減少が深刻化し、人材定着の必要性が高まっています。このような状況下で、従業員エンゲージメントは、人材の定着や企業の持続的な成長に欠かせない、重要な要素といえるでしょう。

ここでは、従業員エンゲージメントについて、注目されている背景のほか、従業員エンゲージメントを向上させるメリット、効果的な施策について解説します。

目次

従業員エンゲージメントとは?

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の理念や目標に共感し、自発的に貢献したいと思う意欲のことです。1990年代にアメリカで生まれた概念で、「理解度」「帰属意識」「行動意欲」の3つの要素によって構成されています。

<従業員エンゲージメントを構成する要素>

  • 理解度...企業のビジョンや理念への理解と共感
  • 帰属意識...企業や組織に所属しているという自覚
  • 行動意欲...自主的に組織のために行動したいという思い

■従業員エンゲージメントのイメージ

従業員エンゲージメントのイメージ

「従業員エンゲージメントが高い」とは、従業員が、上記の3要素を高いレベルで持ち合わせている状態を指します。すなわち、従業員が会社の方向性を深く理解して共感し、強い帰属意識や愛着を持ち、積極的に会社に貢献したいと思っている状態です。

従業員エンゲージメントと似た用語との違い

従業員エンゲージメントと似た用語に、「ワークエンゲージメント」「従業員満足度」「モチベーション」といったものがあります。これらの用語は従業員エンゲージメントと混同されがちですが、簡潔にまとめるとそれぞれ以下のような違いがあります。
ここでは、それぞれの用語との違いについて見ていきましょう。

■従業員エンゲージメントと似た用語の比較

用語

何を表すか

従業員エンゲージメント

会社との関係(会社への信頼、会社とのつながりの強さ)

ワークエンゲージメント

個人の心理状態(仕事に対するやりがいと熱意)

従業員満足度

個人の心理状態(職場環境や人間関係に対する満足感)

モチベーション

個人の心理状態(やる気や意欲)

ワークエンゲージメントとの違い

ワークエンゲージメントとは、個人の心理状態を表す用語で、仕事にやりがいや誇りを感じながら熱心に取り組み、仕事から活力を得ている状態を指します。

つまり、従業員エンゲージメントのように、会社への信頼や愛着といった組織との関係性を評価する指標とは異なり、ワークエンゲージメントは個人の仕事への思いに焦点を当てた概念という点が違いです。

従業員満足度との違い

従業員満足度とは、従業員が給与や福利厚生、人間関係、業務内容など、労働条件にどれだけ満足しているかを示す指標です。一方、従業員エンゲージメントは、従業員が企業の理念や目標に共感し、自発的に貢献したいと感じる度合いを示します。

つまり、従業員エンゲージメントは「企業への愛着心や主体的な貢献意欲」を評価する指標であるのに対し、従業員満足度は「与えられた条件への満足度」を測るものであるという違いがあります。

モチベーションとの違い

モチベーションは、個人の内的な意欲に焦点を当てた概念であり、業務における自己成長や報酬、プロジェクトの達成感など、個人の要因によって変動します。

一方、従業員エンゲージメントは、企業理念に共感し、自発的に貢献しようとする意欲であり、組織とのつながりを評価する指標であるという点で違いがあります。

従業員エンゲージメントが注目される背景

近年、日本では、企業が成長を続けるために従業員エンゲージメントの向上が不可欠とされています。
その理由として、以下の3つの背景が挙げられます。

人手不足の深刻化と働き方の多様化

少子高齢化による労働人口の減少や終身雇用制の崩壊が進む中、テレワークやフリーランスなど多様な働き方が広がっています。このような社会において、優秀な人材を確保し、長く働いてもらうことは企業にとって重要な課題のひとつです。

そこで、会社への愛着や貢献意欲を測り、それを高めることで離職率の低下に役立てられる、従業員エンゲージメントが注目されています。

人的資本経営への転換

従業員エンゲージメントが注目されている背景には、世界的な潮流として、人材を「資源」ではなく「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出す「人的資本経営」への転換が進んでいることが挙げられます。
人的資本経営では、企業の中長期的な成長のために、従業員のスキルアップが欠かせません。そこで、従業員が働きやすい環境を整えるための指標として、従業員エンゲージメントが注目されています。

人的資本経営については、以下の記事をご参照ください。

変化の激しいビジネス環境に対応するため

従業員エンゲージメントが注目されている背景には、デジタル技術の進化や気候変動による社会構造の変化など、ビジネス環境が急速に変化していることが挙げられます。このような中で企業が成長を続けるには、従業員一人ひとりのスキルアップと生産性向上が欠かせません。
そこで、ビジネス環境の変化に強い組織を構築し、企業の競争力を高めるために、従業員の会社への愛着心や貢献意欲を測る指標として、従業員エンゲージメントが注目されているのです。

従業員エンゲージメント向上で従業員が得られるメリット

従業員エンゲージメントが向上すると、組織への信頼感が高まり、従業員は仕事に誇りを持てるようになります。また、自分の能力を最大限に発揮し、自己成長を実感することで、さらなるスキルアップにつながる効果も期待できます。
さらに、従業員エンゲージメントを向上させるには、従業員が心身ともに健康的に働ける環境を整備する必要があります。このような取り組みを行うことによって、従業員は仕事とプライベートをうまく両立できるようになり、結果としてワークライフバランスの実現というメリットも得られます。

ワークライフバランスについては、以下の記事をご参照ください。

従業員エンゲージメント向上で企業が得られるメリット

従業員エンゲージメントを高めることは、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。具体的なメリットは以下のとおりです。

人材の定着につながる

従業員エンゲージメントを高めることで、人材が定着しやすくなるというメリットが得られます。
従業員が会社に愛着を持ち、「自分も会社に貢献したい」という意欲を強く持つことで、優秀な人材の定着や離職率の低減につながります。
また、離職率の低い企業は求職者からの評価も高まり、優秀な人材を採用しやすくなるというメリットも得られるでしょう。

生産性が向上する

従業員エンゲージメント向上で、生産性が向上するメリットが得られます。
従業員エンゲージメントが高い従業員は、仕事に意欲的に取り組み、スキルアップにも積極的です。その結果、生産性の向上や業務の効率化が進みます。
また、製品やサービスの質が高まり、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

職場が活性化する

従業員エンゲージメント向上で、職場が活性化するというメリットも得られます。
従業員エンゲージメントの高い従業員が多いと、職場全体の雰囲気が明るくなり、コミュニケーションが活発になります。このような環境では、新しいアイディアや工夫が生まれやすくなるというメリットも得られるでしょう。
風通しの良い環境は、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。

従業員エンゲージメントを向上させる施策

従業員エンゲージメントを向上させるには、企業のビジョンを共有し、従業員同士や上司とのコミュニケーションを活発にすることが重要です。
以下の施策を参考にし、PDCAサイクルを回して取り組みましょう。

企業理念・ビジョンを共有する

従業員エンゲージメントを高めるには、企業の理念やビジョンを明確にし、従業員に共有する施策が必要です。
従業員から企業の理念やビジョンへの共感を得るには、企業の理念やビジョンについて、正確かつ分かりやすく伝えます。
ミーティングや朝礼、社内報、社内のポータルサイトなど、さまざまなルートを使って、繰り返し丁寧に発信し、徐々に従業員に浸透させましょう。

人事制度・報酬制度を見直す

従業員エンゲージメントを高めるには、人事制度・報酬制度を見直す施策もおすすめです。
従業員が正当に評価されていないと感じる環境では、組織に貢献しようという意欲は生まれません。従業員エンゲージメントを向上させるには、公平で明確な人事制度・報酬制度が不可欠です。
定量的な成果だけを評価するのではなく、企業理念の体現度や業務プロセスも評価要素とし、貢献度に応じた報酬を与える制度を整えましょう。例えば、個人の成果のみで評価する制度から、個人の働く姿勢とチームのパフォーマンスの2軸で評価する制度に切り替えるといった施策が有効です。

社内コミュニケーションを活性化する

社内コミュニケーションを活性化することも、従業員エンゲージメントを高める施策のひとつです。
社内コミュニケーションが活性化すると、いっしょに働いている仲間との連帯感が深まり、組織への愛着を持ちやすくなります。まずは、1on1ミーティングを活用し、管理職と社員のコミュニケーションを活性化してみましょう。
このほか、オープンスペースの整備、社内SNSの活用、感謝の言葉を送り合うサンクスカードの活用など、さまざまな方法があるので、自社に合った方法を取り入れてみることをおすすめします。

福利厚生制度を充実させる

従業員エンゲージメントを高めるには、福利厚生制度の充実も有効な施策です。
フレックスタイム制の導入や休暇制度の整備など、心身ともに無理なく働ける職場を作ることは、従業員エンゲージメント向上の土台になります。
また、福利厚生制度を充実させるには、カフェテリアプランの導入など、従業員が利用しやすい福利厚生にすることも重要です。カフェテリアプランとは、さまざまな福利厚生メニューを用意し、従業員に自由に選択してもらうというプランです。
このほか、すべての従業員が利用しやすい福利厚生として、ウェルビーイングアプリの活用も効果的です。運動や食事の記録による健康の増進や、アプリ内イベントを通じた従業員間交流を促進する機能などを活用することで、職場の活性化を支える施策として役立ちます。

カフェテリアプランについては、以下の記事をご参照ください。

従業員のキャリア開発を支援する

従業員のキャリア開発を支援することも、従業員エンゲージメント向上の施策になります。
従業員一人ひとりの成長を支援することは、従業員のスキルアップに加え、「会社は自分のことを大事にしてくれる」という思いを醸成し、会社への帰属意識を強めることにつながります。
社内外のリソースを活用した研修やキャリア相談の場を設けるほか、身につけたスキルを発揮する場を与え、成長した成果を評価・表彰することも重要です。

まとめ

  • 従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の理念や目標に共感し、自発的に貢献したいと思う意欲のこと
  • ビジネス環境の変化が激しい現代で、企業が成長を続けるには、従業員エンゲージメントの向上が不可欠になっている
  • 従業員エンゲージメントを高めると、企業にとって「人材が定着する」「生産性が向上する」「職場が活性化する」などのメリットがある
  • 従業員エンゲージメントを高める施策には「企業のビジョンを明確化して浸透させる」「人事制度・報酬制度を見直す」「コミュニケーションを活発化させる」「福利厚生制度を充実させる」「従業員のキャリア開発を支援する」などがある
監修
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渋田貴正(しぶた たかまさ) 税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士の4つの資格を保有。上級相続診断士®。富山県生まれ。東京大学経済学部卒。大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
税理士登録後、税理士法人V-Spiritsグループの創設メンバーとして参画。著書に『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’22~’23年版』(成美堂出版)がある。

    
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